読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

チームの勝利〜サカナクション@武道館。

サカナクション SAKANAQUARIUM 21.1(B)
■2010/10/08@日本武道館

 サカナクション、デビューからわずか3年で辿りついた武道館。ちょっと前まで、「ペニーレーンで2日間できるなんて嬉しい」とか言っていたような気がするのに、あっという間に大きくなってしまった。この武道館が発表された瞬間から、絶対に北海道から乗り込もうと夫婦で決めていた。残念ながら僕は関西から乗り込むことになったわけだけど。同じように思っていた北海道のファンは多いと思う。東京に行っても、どんなに大きくなっても、サカナクションは地元のバンドなのだ、という意識がきっと北海道のファンにはあると思う。開場前から多くの人が武道館の周りに集まってきていたが、道内組と思しきおのぼりさん(失礼)風な人達もたくさんいた。
 先行予約なのに2階席かよ、と思っていたのだけど、実際は2階席の一番前の方でステージに向かってやや左、思ったほど遠くなかったので良かった。ステージ後ろのスクリーンには水の中に泡が浮かんでは消えていくイメージ映像が映し出され、ゴボゴボとSEが流れている。泡がたくさん集まって「SAKANAQUALIUM 21.1(B)」の文字が浮かび上がる。いやが上にも期待が高まる。自然と気持ちも高揚していく。と同時に緊張感も高まってくる。変な話、身内がこんな大勢の前でヘマしやしないかとハラハラする親の心境とでも言おうか。北海道代表としてちゃんとカッコよく堂々と決めてくれよ、という思いで開演を待っていた。
 開演。スクリーンの映像が変わり、水が噴水のようにドバシャーッと吹き上がるとそのまま宇宙へ。雨が降り、再び地面へと落ちていく水の視点での映像。そしていつしかスクリーンには上空から見たステージの絵が。そしてAme(B)のイントロのコーラスがSEで流れ大歓声。その中をメンバーがステージ上へと上ってくる。オープニングの盛り上がりとしては最高の演出だと思う。「Ame(B)」「ライトダンス」「セントレイ」と立て続けに演奏し、一気に武道館をライブハウスへと変えてみせる。序盤は若干緊張していたようにも見えたが、「アドベンチャー」で歌詞が飛んだのはそのせいか。『シンシロ』ツアーの札幌初日もこの曲で歌詞忘れていたのだけど、山口一郎の中ではそういう曲なのだろうか。「フクロウ」というなかなか懐かしい、渋い選曲もあった。最近のツアーではやっていなかったと思う。この曲に限らず、この日は『GO TO THE FUTURE』からの曲を多く演奏していた。もちろん、代表曲もあらかた演奏したわけだけど、初期の曲が意外と多かったように思う。「アルクアラウンド」からファンになった人に昔の曲も聞いてもらおうという意図だったのかもしれないけど、僕には札幌時代に作って自分たちと一緒に育ってきた曲に「ここまで来たんだぜ」と感謝しているように思えた。
 「マレーシア32」から「Paradise of Sunny」とインストが続いた中盤はステージが隠れてしまうほどのスモーク演出も含めサイケな空間が立ち上がっていた。かと思えば「ネイティブダンサー」ではレーザー光線が入り乱れるクラブへと変貌する。曲によって、演出によって、武道館という場が自由自在にコロコロとその姿を変える。そんな不思議なライヴだった。山口は「ロックじゃないスタイルの音楽をやる人間がロックバンドというフォーマットで、いかにエンターテインメントするか」というようなことを言っていた。僕はサカナクションがロックじゃない音楽だとは思わない(ロックじゃない要素も多分に含まれている、とは思う)が、彼のそういうイメージを極限まで具現化したのがこの武道館だったのではないだろうか。その中で唯一と言っていいほど孤独な瞬間が本編ラストの「enough」だった。照明が消え、スタンドライトの明かりの中切々と歌いだした時だけは、武道館は山口一郎の部屋になった。『シンシロ』ツアーのときにはもうこの曲はライヴではやらない、ということも言っていたが、山口一郎の体を切ったら流れてきた血であるかのようなこの曲も、やはりこの場で演奏されなければならないものだったのだと思う。しかも本編ラストにこの曲を置いたことには少なからぬ意味があるのではないだろうか。
 僕のようなおっさんロックファンにとっては武道館というのは確かにひとつの象徴的意味合いを持つものではある。 ただ、今のバンドにとって武道館でやることそのものがステイタスであるとか、どれほどの意味があるのかは正直わからない。それでも、僕はサカナクションのようなバンドがここでやることには意味があると思う。「メジャー」と「アンダーグラウンド」という両極を巧みに泳ぎ回り、シーンに対しての明確な野心を持っているサカナクションのようなバンドが武道館に旗を立てたことは大げさかもしれないけれど、ひとつの勝利であると思うのだ。山口自身はあまり武道館ということを意識していなかったというが、最後には「また(武道館で)やりたい!」と言っていた。やはり、武道館のステージから見る景色は他の会場とは違うのだろうか。
 大事なことをもうひとつ。この日は非常に音が良かったと思う。初武道館のウチの奥さんは「武道館って音が悪いって聞いてたけど、そんなことなくない?」と言っていた。実際、音響的にはかなりこだわってがんばったのだと思う。正直、武道館でここまで音の良いライヴはほとんど記憶にないくらいだった。映像、サウンド、演出、ステージ設営から何から、山口自身が言っていたように今のサカナクションは本当にいいスタッフに恵まれているのだと思う。アンコールが終わってメンバーが退場した後、「TEAM SAKANACTION」としてスタッフロールがスクリーンに流れたのだけど、バンドのメンバーだけでなく、彼らのイメージを共有し具現化するスタッフもまた賞賛されるべきだと思った。スタッフロールが終わった後再びステージ上の映像となり、カメラが移動すると開演前?誰もいない武道館アリーナの真ん中で手を振るメンバー5人の姿が。と思うと、同じアングルでライヴカメラに切り替わり、満員の武道館アリーナのお客さんが映し出される。大歓声。そこで客電が点き、終演。最後の最後までカッコいい、ひとつの映画のようなステージだった。
 歌詞は飛んだしアクシデントもあったし100%完璧ではなかったけれども、それでもこれはチームサカナクションが到達した現時点での最高の舞台だったのだと思う。そこに観客として居合わせたことは、この先何年も自分にとっても財産になると思う。あの場にいた1万人以上の人はみんな思っていただろう。「自分もチームサカナクションの一員なんだ」と。ここからまた新しい物語が始まるはずだ。楽しみにしたい。

■SET LIST
1.Ame(B)
2.ライトダンス
3.セントレイ
4.アドベンチャー
5.Klee
6.フクロウ
7.涙ディライト
8.アンダー
9.シーラカンスと僕
10.マレーシア32〜21.1
11.Paradise of Sunny
12.新曲
13.ネイティブダンサー
14.インナーワールド
15.サンプル
16.三日月サンセット
17.アルクアラウンド
18.アイデンティティ
19.enough
<アンコール1>
20.GO TO THE FUTURE
21.白波トップウォーター
<アンコール2>
22.目が明く藍色