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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

あれから10年も。これから10年も。

マジックディスク【初回生産限定盤】

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 約1年7ヶ月ぶりとなるアジカンの新作。前作『サーフブンガクカマクラ』はバンドの青春期を改めて作品として昇華するようなアルバムで、『ワールドワールドワールド』期のバンドモードをリセットする意味合いが強かったと思う。アジカンの新しいモード、具体的には「新世紀のラブソング」以降のモードというのは本作で提示されることになる。
 アジカンはこれまでも聞く者に様々なメッセージを投げかけてきたが、その多くは1対1のコミュニケーションに帰結するもので、その問いかけは自分の中で完結できる場合が多かったように思う。しかし、今回のアルバムに収められた言葉は2010年代以降の音楽、そして時代そのものに対して、今現在を生きる者の立場から述べられている。2001年9月11日に塗り変わった世界の中で過ごしたこの10年を相対化し、これから我々はどう進むべきか。また、CDから配信へと移り変わる時代において、アーティストは何を考え、何を提示していかなければならないのか。 この時代に我々の世代は何を考え何をするべきか、そういうひとつ上の視点から曲が書かれていると思う。
 「「繋いで」それだけを頼りに意気込んだ彼らの/屍 掻き集めるなら新しい何かを」(「イエス」)という歌詞に明確に示されているように、その上で後藤正文は自らのこの10年間を「屍」と言い放ち、この新しいモードで乗り越えるという意思表示を行っている。ソングライターとして、アーティストとして、後藤正文は今までより一段上のレベルで言葉を紡ごうとしている。それに対峙するためには音も変わらなくてはならない。「新世紀のラブソング」に見られるラップもどきのボーカルは新しい歌詞と向き合った結果であろうし、ホーンセクションの導入やこれまでにないリズムパターンなど、様々な試行錯誤の影が見て取れる。このアルバムにあるメッセージが苦悩や悲壮感ではなく、これから本当の21世紀が始まるのだという希望として描かれているところは個人的に好きだし、良かったと思う。
 アジカンがダイナミックにその表現を進化させたと同時に、これから先10年の日本のロックが進むべき道に楔を打ち込んだようなアルバムだと思う。そう、今のアジカンを深掘りして理解するには、シングルだけではなくこのアルバムの全曲が必要だという意味で、きちんと「アルバム」としての意義を持っている作品だとも思う。それもまた彼らからのひとつのメッセージになっているんじゃないだろうか。