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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

Cocco、覚醒。

エメラルド(初回限定盤)(DVD付)

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 『きらきら』以来約3年ぶりとなるCoccoのオリジナルアルバム。前作のプロデューサー、長田進は本作にはほとんど参加しておらず、Coccoの作品としては初のセルフ・プロデュースとなっている。前作でようやく沖縄という自らの出自と真正面から向き合い、折り合いをつけた彼女は、沖縄もまた自分の一部であるという境地に至ったのだと思う。先行シングル「ニライカナイ」を始め、本作の曲には沖縄の島唄のフレーズや島言葉が随所に出てくるが、狙ってやったと言うよりはごく自然にそういった曲ができてきた、という感じに近いのではないかと思う。
 かつてのCoccoには、根岸孝旨や長田進のように彼女の頭の中にある曲や音を翻訳し具現化するための存在が必要だった。しかし、Coccoは自分の中の音楽家としての資質から逃げずに向き合い、それを自ら発信するだけの力をすでに身につけている。彼女にセルフ・プロデュースを勧めたのは長田だったそうだが、彼はCoccoがもう自分でプロデュースできること、もしくは、彼女の中のものは彼女でしか御しきれない、ということに気づいたのだろう。それが懸命な判断だった、ということは本作の内容が物語っていると思う。
 根岸を始め、Curly Giraffe(高桑圭)やRYUKYUDISKOなど、様々なミュージシャンがアレンジャーとして参加しているが、散漫な印象はなく、Coccoという人間そのものが真ん中にブレない軸として存在しているのがわかる。Coccoというアーティストは、抱えきれないほどの愛情と憎悪を持っている人だが、その対象範囲は沖縄、日本、そして我々の住むこの世界そのものと言えるまで大きくなっている。結果的にその憎悪が自分自身に向かざるを得ないと言うのがCoccoの持つ大きな業であるのだが、本作ではそこに対しても折り合いをつけ、きちんと作品として成立させている。それは彼女の人間としての成長に他ならない。
 Coccoという人がどういう場所から生まれ、何を見、何を経験し、今どこにいるのかということが全てこのアルバムには落とし込まれている。これは、他人のプロデュースでは表現し得なかったことだと思う。アーティストCoccoの真の覚醒の一枚であると同時に、聞くものに大きな希望と感動を与えるであろう傑作。