無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

開かれた孤独の先に。

Write About Love

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 ベルセバ、4年ぶりの新作。前作からだいぶ間が空いているが、スチュアート・マードックもソロ仕事があったし、各メンバーがバンド以外の活動を進めている中ではある意味仕方がないのかもしれない。その間には『BBCセッション』のリリースや昨年のフジでの来日もあったので全く音沙汰無しではなかったのだけど。
 『ヤァ!カタストロフ・ウェイトレス』(2003)、『ライフ・パースート』(2006)と、徐々に万人に開かれたポップスとしての側面を強めてきたベルセバだが、本作もその流れに沿ったものと言える。タイトル通り、様々なシチュエーションでのラブソングをテーマとしたアルバムであり、ベルセバがここまでラブソングに特化して向き合ったこともかつてなかった事だろう。プロデュースは前作に引き続きトニー・ホッファ。曲調もアレンジもバラエティに富みカラフルでありながら、どこか古めかしく、スタンダードな匂いを発するようなサウンドが心地よい。開かれたとは言っても、スチュアートの囁くようなボーカルや憂いに満ちたメロディーラインもまだ健在。その中で時に弾けるような力強い歌を聞かせたりもする。
 夜、暗い部屋の中で布団に包まりひとりヘッドフォンで聞いていたあのベルセバはすでに過去のものになってしまった。初期からの多くのファンにとって、ベルセバとは孤独を共有する存在として愛でられていたはずだろう。そういうファンにとってこの数年の変化は一抹の寂しさを感じるものかもしれない。しかし、ロックフェスに登場するベルセバは、果たして孤独を噛みしめる音楽としてその場に相応しいものであろうか。来日公演を見てきた人ならわかると思うが、2000年代のベルセバはずっとオーディエンスに向かって「開かれて」いたのだ。『天使のため息』の静謐な美しさをいつまでも愛しつつも、本作に満ちる開かれた愛の歌に、この優れたギターポップに抗う術があろうか。僕にはやっぱり好きだ、という言葉しか出てこない。