無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

神が降りた夜。

 2007年12月10日、ロンドンのO2アリーナでのレッド・ツェッペリン再結成ライヴの模様を収録した2枚組。このステージは前年に亡くなったアトランティック・レコード創始者、アーメット・アーティガン氏のトリビュート・コンサートの一環として行われた。『奇跡のライヴ』という邦題がついているように、この日のライヴは事前の噂や下馬評を大きく覆す大反響を呼び、絶賛された。現在まで否定され続けているが、この日以降、再結成ツアーの噂が世界中を駆け回ることにもなった。"Celebration Day"とは言うまでもなく彼らの3枚目のアルバムに収録されていた曲のタイトルだが、この日のライヴでは演奏されていない。
 確かにこのライヴ盤は素晴らしい。客のテンションはもちろんだが、ステージ上のメンバー(ジェイソン・ボーナム含む)全員の気合も相当に漲っていたことが伺える。年齢による衰えを指摘することも容易いが、問題はそれによってレッド・ツェッペリンとしての音の強度が損なわれているかどうか、ということだ。僕はそれは否、だと思う。もちろんパーフェクトではないが、ツェッペリンツェッペリンたらしめていた「モノ(Presence)」が確実にこのライヴ盤には存在しているからだ。そして、それは過去のツェッペリン再結成ライヴにも、ペイジ&プラントにも感じられなかった、あるいは希薄だったことだからだ。
 ツェッペリン独自の超合金のようなグルーヴは本人たちですら再現することが困難なものだった。80年代の頃は、自分達が集まればすぐにツェッペリンはできるさと思っていたフシがある(特にジミー・ペイジは)。しかしそうではなかった。それはボンゾがいないからとか、年を取ったとか、そういう問題ではなかったのだ。それを生み出したメンバーですらその前にひれ伏し、ストイックにプレイしなければならない程の絶対的なサウンド。ツェッペリンのロックとはつまり、それほど別次元の存在なのだ。それが「降りてきた」この日のライヴは確かに音楽の神に祝福された一夜だったのだと思う。そしれこれは決して偶然ではなく、この音を追い求めた4人の謙虚でストイックな姿勢が呼んだものなのだろうと思うのだ。
 ジミー・ペイジ、J・P・ジョーンズ、ジェイソン・ボーナムの3人はこの日のために相当なリハーサルを積んだという。無心の境地に至って初めてこの音を鳴らせたのだとすれば、確かにツアーなど無理な話だろう。なぜこのアルバム、そして映像が出るのに5年もかかったのかはよくわからないけれど、体験できてよかった。ツェッペリンの音に一度でも魅せられたことがある人なら、必修として視聴しておくことをお勧めする。