無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

夜の東側に向けて。

sakanaction (初回生産限定盤CD+Blu-ray)

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 約1年半ぶり、サカナクション6枚目のアルバム。前作は東日本大震災の影響をモロに受け、2011年の日本(と、そこに生きる人々)をまさにドキュメントとして描いたアルバムだった。今作は音楽シーンや世相と言った背景よりは、彼ら自身(というか山口一郎自身)の心象を丁寧になぞるような内容となっていて、端的に言うと非常に内省的なアルバムだと思う。前作も今作もテーマとしてへヴィーな内容(聞きにくいという意味では決してなく)ではあるのだけど、バンドという枠を超えてやや風呂敷を広げた前作に対し、今作はいま一度自分たちが音楽に向かう動機や姿勢を見つめ直すようなアルバムになっている。先行シングルとしてリリースされた「ミュージック」はまさにそういう曲だと思う。そしてこういう内省なアルバムがバンド名を冠したセルフ・タイトル作になるのは必然でもあると思う。アップテンポな曲ももちろんあるが、全体としては翳りのある、夜をイメージさせるアルバムだと思う(彼らのアルバムは基本どれもそうだが)。
 先日放送されたNHK「SONGS」を見た人は改めて理解したと思うけど、山口一郎という人は孤独な闇を抱え、その闇を自身の哲学として表出させるソングライターである。多かれ少なかれ同じような闇を抱える人間がそこに共感しているのだと思う。ダンスミュージックという外装はそのコネクションをより増幅させるための装置であり、闇に対応するための「光」の部分だと思っている。なので彼らのライヴにはそのサウンドに身を任せ刹那的に踊る人間と、その歌詞に涙する人間が混在しているのだ。
 「ミュージック」や「Aoi」をはじめ、曲のサビや重要な歌詞をバンドメンバーのコーラスとして歌っているケースが本作では多く見られる。共感という現象をより顕在化させるために、この「人の声」が非常に有効に作用しているように思う。山口一郎一人の声よりも、バンド全員が合わさった「声」の方が、聞き手はその中に自身を投影しやすいと思うからだ。何度も言うように本作は内省のアルバムであるのだけど、決して独りよがりにならず聞き手が自分の物語として受け止められる余地を失っていないのは、このコーラスの力が大きいのではないかと実は思っている。
 夜のイメージ、内省のアルバム、コーラスの多用。僕の中では『NIGHT FISHING』とどこか印象がかぶるアルバムである。『NIGHT FISHING』は彼らが札幌を離れ、東京に出ていく直前に制作されたアルバムだった。本作もまた、次のステージに向けて彼らを導くアルバムになるのではないか。そんな気がしている。