無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

エミネムの孤独な戦い

ザ・マーシャル・マザーズLP

ザ・マーシャル・マザーズLP

 デビュー作で彼は「Slim Shady」という架空のキャラクターを作り上げた。それは彼なりの防衛本能のようなものだったのではないだろうか。自分のアルバムが巻き起こす様々な問題と、自分が集める大きな注目から身を守るための。しかしこのアルバムで彼は自分自身(Marshall Mathers)をさらけ出し始めている。その一方で「The Real Slim Shady」という曲を書いてもいる。虚実入り混じった一人の人間の孤独な戦い。エミネムが戦っているのは古今東西全てのポップスターが向き合わねばならないスターシステムそのものだと思う。
 過激な表現というデコレーションを取り払ってしまえば、リリックの中にあるのが非常に真摯にファンや自分の人生と向き合っていることがわかるだろう。ファンとの手紙のやり取りが悲劇的な最後を迎える"Stan"は名曲だ。彼は今のところ戦いに勝利している。が、この先どうなるのか。個人的にはかなり分の悪い戦いにならざるを得ないと思うのだが、何とか持ちこたえて欲しい。
 彼のようなアーティストがブリトニーとかアギレラだとかと同列で語られること自体が何か違ってるんだと思う。