エミネムのショウは続くか。
- アーティスト: Eminem
- 出版社/メーカー: Interscope Records
- 発売日: 2002/05/23
- メディア: CD
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (16件) を見る
新作はそんなジェットコースター的な人生をまんま放り出したようなアルバムになっている。タイトルこそ「エミネム・ショウ」と、この冗談のような人生をショウとして、エンターテインメントとして演じ切ってやるぜというユーモアに見えるが、真っ赤なカーテンの前でぽつんとふさぎこむエミネムの姿が映されたジャケットも含めて、ここでの彼は明らかに疲れている。そしてあまりにも無防備だ。「スリム・シェイディ」という別の人格を演じるでもなく、今作ではもうエミネムとマーシャル・マザーズの境界線が限りなく曖昧になってしまっている。このアルバムでのエミネムは前作以上にマーシャル・マザーズそのものだ。「叔父の代わりにお前が死ねばよかった」と少年時代母親に言われたトラウマを歌った「Cleanin Out My Closet」、銃による暴行、脅迫で逮捕された時の状況をあからさまに再現した「The Kiss」など、彼の人生を取り巻く狂騒がまんま描かれている。もちろん、相変わらずイン・シンクやモービーなど、周囲を攻撃する悪役としてのエミネムも健在ではあるが、今回のスポットがそこに当たっているのでないことは確実だ。そしてこのアルバムにおいてそうした自分の人生を総括するように吐き出した要因は何かというと、やはり愛娘ヘイリーの存在だろう。リリックの中にその名は何度も登場するし、「My Dad's Gone Crazy」では競演までしている。彼女のために俺は良き父親にならなければならない、とも何度も語られる。そして自分の父親のようにはなりたくない、でもなってしまうかもしれない自分が恐い、と、弱音を吐いたりもしている。一言で言うと、このアルバムは守るべきものを手に入れたエミネムの迷いが作らせたアルバムだと思う。今までエミネムをエミネムたらしめていたものが、自分の愛するものを自分から遠ざけてしまうかもしれない。その葛藤が溢れたアルバムだと思う。この先彼はどこに向かっていくのだろうか。
蛇足のようになってしまうけど、そのスキルはやはり圧倒的だし、ラップミュージックとしての娯楽性と完成度はとんでもなく高いレベルで当たり前のようにクリアしてしまっている。それがあるからこそやっぱりすごい。