無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

自分と世界を繋ぐ音。

100s

100s

 中村一義が中心となって結成したバンド「100s」の記念すべきデビューアルバム。…と言ってしまってもいいものになるだろうとは思っていたのだけど、それは当たってもいるし、外れてもいる。そういうアルバムになっている。昨年のロッキンジャパンフェス、今年の博愛博ツアーを経てそんじょそこらのバンド以上のソウルマジックを感じさせるに至った100sのバンドサウンド。しかしそのサウンドに乗ってこのアルバムから聞こえてくるのは中村一義という人の剥き出しの言葉と意思だった。
 たった一人の部屋の中で外の世界を知らぬまま、引き裂かれた状況を鳴らすことで自分の存在意義を高らかに宣言した『金字塔』。中村一義はそこからスタートし、『ERA』では愛と希望に満ちたゴスペルを手にし、それをストレートに投げかけるメッセンジャーとなるに至った。他者とのコミュニケーションの切実な欲求。自分が中心となった同心円が広がっていくに従い生まれてくるそれを少しでも満足させるため、必然として音も言葉もシンプルになっていった。今作は、基本的に『ERA』の延長上にあるけれども、コミュニケーションツールとしてのポップネスとともに、彼の本質がぐっと見えてくる作品になっていると思う。「ZEN」のような曲がその象徴だろう。そこから「新世界」、「ひとつだけ」と並ぶラストまでがアルバムのクライマックスだ。他者と自分、それはつまり中村一義100sというバンドであり、ステレオの前にいる僕らであり、あのライブを共有していた僕たちだ。このアルバムにはそれを全て収めてしまう大きさがある。ここは、100sが演奏してるスタジオでもあるし、状況が裂いた部屋でもある。そして僕がいるこの部屋は、まっすぐにそこにつながっている。感動的なことじゃないか。