無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

深化する猿。

心臓オーケストラ

心臓オーケストラ

 彼らの内にあるものが変わったというわけではないとは思うのだけど、前作に比べて各段に音楽としての幅が広くなった。簡単に言えば怒りや苛立ちを真正面から叩きつけるだけではなくなった。前作の感想にも書いたけど、童謡のようなメロディーは更に牧歌的な味わいを深くし、辛辣に世界を描き出していた言葉は詩情に溢れ、スケールの大きい風景を切り取るようになった。同じ激しい感情を表現するのにも、音楽として激しいだけではなく、様々な表現を使い分けるようになったと言える。これはすごくいい。もともとメロディーには非凡なものがあるバンドだと思っていたので、こうしたアプローチはその武器を更に多くの人たちに広げることになるのじゃないだろうか。ドラムの松田晋二によるアートワークにも、前作からの変化は見える。見るものにショックを与えるようなものから、もっと自分の内にあるものをじっと見据えるような、そんなトーンに変わっていると思う。それはサウンドや詞の変化とも見事にリンクしていると思う。基本的にドラムとギターとベースだけでやっているバンドなのにアレンジも気を使っているので退屈しない。様々に表情を変えるギターのサウンドは一聴の価値あり。
 アルバムでベースを担当していたサポートメンバーが正式にバンドに加入したようで、これから更にバンドとしてまとまっていくだろう。大化けするかも、と僕は前に言ってたのだけど本当にそうなりつつあるんじゃないだろうか。1月、直接この目で確かめてこようと思う。