歴史に刻まれた男たちのドラマ。
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2004/08/18
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ドラマのキーワードのひとつは「復活」というものだ。3人の男は、皆挫折と絶望を経験している。自動車セールスで巨万の富を築くも、自動車事故で最愛の息子を亡くし、妻にも去られた実業家ハワード。近代化の中で自分の生きる場所を失い、雇われ調教師としてその日暮らしをする西部のカウボーイ、スミス。裕福な家に生まれながら世界恐慌をきっかけに生活が困窮し、両親に捨てられた騎手ポラード。映画の軸をなすのは、過酷な運命から這い上がろうとする男達の骨太なドラマである。そして、主役であるシービスケットもまた、道から外れた運命を持つ馬なのだ。体が小さく、気性の荒さから調教師からサジを投げられ厄介者として厩舎をたらい回しにされていた。馬も人間も、運命に見放されたような彼らが自分の意思と力で成功をつかんでいき、世間がそれに熱狂するといく過程は見ていて胸がワクワクする。そして、その中で見えてくるもうひとつのテーマは「チャンスは誰にでもあるものだ」ということ。騎手のレッド・ポラードは競馬だけでは食べていけなかった時代、草ボクシングの試合で生計を立てていた。その時の古傷が元で右目の視力がほとんどなかったと言う。騎手としては致命的といっていいハンディだ。それが明らかになったとき、調教師であるスミスはポラードをクビにするべきだと激怒する。しかし、馬主であるハワードが、こう諭すのだ。「少しのケガで、命あるものを殺すことはない」これは、スミスがかつて厩舎に捨てられた馬を世話していた時に言った台詞だ。挫折を知るからこそ、同じように苦しむものに手を差し伸べてやることができる。こうした友情や愛が、骨太なドラマの裏で絶妙なスパイスとして機能している。
レースシーンの迫力も特筆すべきもの。僕は競馬はやらないが、多分ファンの人でも圧倒されるだろう。カメラワークも含めて、実際のレースを見ているような臨場感。これがあるからこそドラマも映える。シービスケットとウォーアドミラルとの一騎打ち、そして骨折からの復活のドラマ。結果がわかっていても単純に感動する。女性よりも男の方がきっと感覚的に反応すると思う。実際、メインキャストにほとんど女性はいない。ラブロマンス的な要素も全くない。あくまでも男のドラマとして仕上げているのは製作者側の意図だろうが、それが効を奏している。
2時間半ある長い映画だけれども、要所要所に小さなクライマックスが用意されているので見ていて間延びした印象はない。この映画を見るのに実際のシービスケットの歴史を知っている必要も全くない。トビー・マグワイヤはスパイダーマンに2出られなくなっても(結局出るけど)、本作に出演を熱望したそうだ。それだけの素晴らしい演技。こういういい映画を見る時間は、何物にも代え難い豊かな体験なのである。