無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

奥田民生・ひとり股旅スペシャル(2)

奥田民生 ひとり股旅スペシャル@広島市民球場
■2004/10/30@広島市民球場
 注目の1曲目は「ふれあい」。『GOLDBLEND』に収録された、民生のライヴでは割と地味な曲だと思う。しかし、ギター一本でだだっ広い球場に響くと、これが素晴らしく美しく深い曲だということがわかる。そして「荒野を行く」は今日この先のステージに対する民生の決意を感じさせるものだった。「ブルース」という懐かしい曲もありつつ、前半は『GOLDBLEND』の曲が続く。選曲としては決して派手ではないが、全くもってそれが何だという感じで、民生という人の一挙手一投足に僕は引き込まれ続けていた。
 民生が座っていたのはいわゆる普通の事務用椅子で、たまにバックネット側から三塁側、一塁側、バックスクリーン側と向きを替えつつ歌っていたのだけども座ったままキーキー動くものだから緊張感が台無し。それが民生らしいといえばそうなのだけど、この日の彼は徹頭徹尾真面目であった。やる気がなさそうなのも、たまに緊張感をふっと抜くのも、ぼそぼそとしゃべるMCも、照れ隠しではなくそうしようという意思の元にやっていたという気がする。それくらいの熱が彼の周りを覆っていたのである。10曲目「アーリーサマー」の次はフジファブリックの「桜の季節」。ここからしばらくはカバー曲が続く。アジカン「君という花」、井上陽水「最後のニュース」。どういう基準で選んだのかはよくわからないが、とにかく民生の声がいい。最高のコンディションでこの日を迎えたのだろう。このまま音源として出してもいいくらいの完璧なボーカルで様々なカバーを歌いこなしていく。これまでもライヴで披露してきた「最後のニュース」は、むしろバンドアレンジよりも原曲に近いということもあって凄まじく説得力のある感動的な瞬間となっていた。別にこの演奏が今の世界情勢に対する民生からのメッセージである、とは思わないが(実はそうなのかもしれないが)、「今あなたにGood Night/ただあなたにGood Bye」というフレーズが、とてつもなく切ないラブソングとして鳴っていた。それがこの曲の本当の姿なのだと言っているようだった。これは泣けた。
 そして前半ラストはRyu「冬のソナタ」。僕は韓流ブームとかには全く興味がないのでこの曲もきちんと聞いたことがない。ので、民生が歌っていた歌詞が本当にちゃんと原曲の歌詞なのかどうかはわからない。もしかしたら「オジャパメン」みたいなインチキハングルなのかもしれない。しかし、あまりにも上手く、真面目にそれらしく演っているものだからおかしくて仕方がない。かなりこれはウケていた。「まあ、こういうのもアリじゃないの」という感じで、1回表は終了。大歓声の中ペ・民生は舞台裏に姿を消したのだった。