無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

異形と普遍の間で。

 このアルバムを購入してから数ヶ月間、何度も何度も聞き返しているけれどもいまだにどう接したらよいのか考えあぐねている。いいアルバムだとは思う。曲もいいし、アレンジもいいし、演奏もいい。歌詞もいくつかは非常にいい。でも、なんと言うか、引っ掛かりがなくするりと流れて行ってしまうのだ。しかしそれは、今までのバックホーンに比べればと言う話ではあるのだが。
 異物感。僕がバックホーンを初めて聞いたときから、彼らの音楽に感じていたのは異物感だった。どうがんばっても飲み込めない魚の骨が喉に引っかかっているような感覚。一見普通の人間だがその奥にドロドロとした狂気を秘めているような、異形のオーラ。本作には「上海狂騒曲」にように、無表情のまま血みどろで金属バットを振り下ろすかのような曲もある。が、ギターの音はザラついた質感を持っていても、全体としてはなんというか優等生的なロックにおさまってしまっている感触だ。
 どんな劇薬だって飲んでいるうちに体は慣れてくる。もっと強い薬でないと効かなくなってくる。最初はそういうことなのかとも思ったが、どうもそうではなさそうだ。本作での彼らは意図的に普遍的なテーマをわかりやすい言葉で書いているように思う。それにふさわしいサウンドを選択しているようにも。前作『イキルサイノウ』は過去最高の密度で鳴らされた傑作であったが、確かに、あのテンションを維持してさらにその上を行くのは不毛なようにも思える。
 なんにせよ、このアルバムはまだバックホーンが新しい表現へ到達するための通過点なのではないかと思う。「キズナソング」や「奇跡」といった曲がその中で生まれてきたのだとすれば、この先にも期待が持てるというものではないだろうか。