無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

パーフェクション大魔王。

X & Y

X & Y

 前作『静寂の世界』をも遥かに凌駕した緻密なアレンジ。細部まで構築された音世界。クリス・マーティンのボーカルを筆頭に圧倒的に向上した演奏技術と一寸のスキも無いバンドアンサンブル。あまりにも完璧なこのアルバムを今年度ベストに推す声があるのも当然だろう。
 しかし個人的にはその完璧さを前にしてすごいとは思いつつも、それはロックとしての興奮とは全く違う種類のものだった。語弊を恐れずに言えば、ロックなどという音楽が完璧なものであるはずが無い。人間は完璧でないがゆえに迷い、悩み、怖れる弱い生き物であり、ロックとはまさにその弱さから生まれるものじゃないかと思うからだ。クラシックのコンクールのように、減点法で完璧さを競うものならばいざ知らず、少なくとも僕がロックに求めているのはそういう類のものではない。
 ただ、1曲たりと駄曲がないのはさすがで、完璧ではあるが聞いていて息苦しくなるような感覚はない。彼らが何を考え、どういう思いでこの完璧な箱庭のようなアルバムを製作していたのかは知る由もないが、ここまで誇大妄想的に「すべてをあるべきところに」収めることは、ある意味狂気と言えなくもない。いずれにしろ、僕のような凡人にとっては理解する以前にその圧倒的な音を前に畏怖するしかないようなアルバム。参りました。