無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

Shake Hip!が好きだった。

 今年のライジングサン・ロック・フェスティバルのタイムテーブルが発表された。出演者発表の時から、個人的な目玉のひとつは、期間限定で再結成した米米クラブだった。彼らが解散する前は、今のようなロックフェスはまだ存在していなかった。フェスティバルという非日常のハレの場には彼らのようなバンドこそふさわしい、のではないか。これを見ずして何を見る。そして、米米クラブというのは僕の中学〜高校時代、常に共にあったといっても過言ではないくらい大好きだったバンド。音楽のみならず、価値観、美意識にまで影響を与えたバンドである。ティーンエイジャーだった自分への落とし前として、彼らのステージは今回絶対に見届けておきたい。

シャリ・シャリズム

シャリ・シャリズム

 というわけで、久々にデビュー作をひっぱり出して聞いている。デビュー当時、彼らが深夜のTVで訳のわからないシュールな番組をやっていたのを覚えている。彼らがもともとアート系の学生で、元々の出が音楽より演劇方面だったということもあるだろうが、彼らを語る際にこうした音楽以外のビジュアル面、ライブでの芝居(コント)や大げさなセット、さまざまなアイディアをぶち込んだプロモーションビデオの数々、といった部分は絶対にはずせない。
 その個性的なライブが注目されてデビューしたバンドなわけだが、実はこのデビューアルバムではそのライブの面白さが音楽に落とし込めているわけではない。アレンジも稚拙だし演奏もまだ未熟な部分が多いのだが、僕はこのアルバムがセカンド『E・B・I・S』と並んでかなり好きなのだ。憎めないのだ。曲自体は確かに佳曲が多く、デビューシングル「I CAN BE」は何度かリメイクされているが、ここに収められた最初のバージョンが僕は一番好きだ。レコードではポップな部分を前面に出し、ライブではアングラ劇団のごとくカルトでシュールなネタを披露する、というのが彼らのスタイルだった。僕が好きだったのはそういう部分で、いかにバカバかしい事を一生懸命命かけてやるか、という美学に打ちのめされていたのだった。次は何をしてくれるんだろう、どんな風に驚かせてくれるんだろう、という期待を常に抱かせてくれるバンドだった。そんなバカバかしい事をやりつつ、バンドの演奏はどんどん上手くなっていく。音楽をやっている人間が音楽そっちのけでバカをやっていたらそれは単なる悪ふざけに過ぎないが、彼らはきっちりとミュージシャンの本分を押え、いい曲を書き、いい演奏をし、その上でふざけていたのである。こういう姿勢は今に至るまで僕の人生にも多大な影響を与えている部分である。しかしライブがどんどん大規模になり、さらにエンターテインメントとして完成されたショーになっていくにつれて彼らからゲリラ的なフットワークの軽さというものが失われていくことになる。カールスモーキー石井自らがデザインする舞台セット、衣装へのこだわりは病的であり、一回のショーをやるにも莫大な金と時間と人を使わなくてはならなくなり、「そのためにレコードを売ろうと思った」彼らは「君がいるだけで」のミリオンヒットを飛ばす。これ以降ライブで彼らが描こうとしている世界とヒットメイカーとしての米米CLUBのイメージはどんどん乖離していき、それにつれて僕も彼らの音楽から離れていってしまった。だから、マイナー志向とか選民意識とか言うのとは別の意味で、僕は大ヒットを飛ばす前の米米クラブが一番好きだったのである。生まれて初めてライブを見に行ったバンドも彼らだった。
 バカバカしいライブをそのまま収めた世紀の迷盤『米米CLUB』と、その対極であるポップサイドを強調したコンピレーション『K2C』が、本来ならマストの2枚になるだろう。両方とも擦り切れるくらい聞いたものだ(CDだけど)。フェスという、自分たちの自由にステージセットなど用意できない場で、素の彼らがどんなイタズラを見せてくれるのか。8月19日16時が待ち遠しい。