無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

押してもダメなら引いてみな。

 サンボマスターの持つメッセージは真正面からラブ&ピースを唱えるものであるが、その暑苦しさを含め、時代によっては異形とも思われる彼らのようなバンドがメインストリームとなりシーンを牽引していくのは非常に興味深い。「電車男」のテーマ曲として使われたこともあるが、まさにサブカルがメインに侵食していく構図を地で行ってるバンドなのじゃないか。それが本人たちの意図であるかどうかは別にして。
 前作で既に大衆からの期待に応える覚悟というのは見えていたが、実際に頂点(と、あえて言う)に立った後で出されるアルバムとしては初になる。そして実際、アルバムの端々にそのような気負いは感じられる。感じられるが、やや空回りしている部分もあるのでは、という気がしなくもない。
 彼らの言う「愛」は基本的に君と僕の間だけのものである。自分たちの音楽が届く範囲が広がっても、徒にその愛の定義も広げようとしていないのは好感が持てる。タイトルで言ってくれるまでもなく、そもそもロックンロールというのは君と僕の間で起こるものでしかないものなのだ。しかし、これだけそのテーマを連呼され、執拗にスポットライトを当てられ続けると、聞いていて気疲れしてしまう。端的に言ってアルバムが一本調子なきらいがないだろうか。最初から最後まで非常に高いテンションで維持されているという意味では稀有な作品だと思うが、逆に言えば息を抜く暇が無い。この内容で18曲、70分超は、正直冗長に思える。基本的には歌ってることはひとつなわけだし。バンドのテンションの高さに見合うだけの気合いを聞く側にも要求するようなアルバムだと思う。
 サンボマスターのロックンロールはジャズやR&B、ソウルなど黒人音楽の影響を強く感じさせるものであるが、今作においてはメロディーにもアレンジにもやや余裕が無く、しなやかさと艶っぽさに欠ける。彼らのメッセージはシンプルであるがゆえに力強く時代を射抜く可能性を持ち得た。それをさらに広げ、かつ鮮度を落とさないためには力技だけでは難しいと思う。メッセージを有効に機能させ、聞き手の耳を自然と開かせるような工夫(例えば、サウンドの幅を広く使ったり、緩急をつけたり)が必要だろう。そして実際、過去の音源からも明らかなようにサンボマスターというバンドと山口隆というソングライターはそういう素養を持っているのだからして。(もとより彼ら自身にそんなつもりは全く無いだろうが、)彼らに心酔するファンが満足すればいいというバンドでは、もはや無くなっている。彼らにかかる期待は大きく、夢を見たくもなってくる。我を忘れない客観性というのも時には必要だと思う。