無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

戦いは続く。

RAGE AGAINST THE MACHINE
■2008/02/09@幕張メッセ国際展示場
 昨年レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン再結成、と聞いたときはコーチェラでの一発限りのものかと思ったのだけど、こうしてワールドツアーを行い、来日までするというのは正直驚いた。これは行かねばなるまい、ということで8年前と同じように札幌から幕張へと乗り込んだ。
 海浜幕張駅へと着いてみると、北海道とは比べるべくもないとはいえ、やっぱり寒い。16:00過ぎに会場に到着し、まずはTシャツでも買おうかとグッズ販売をのぞいてみると既になんだこりゃってくらいの長蛇の列。まあ、開演まで余裕を持って会場入りしたし、他にやることもないので並ぶ。待つこと実に1時間。ようやくTシャツ2枚とマフラータオルをゲット。続いてはクロークに荷物を預けることに。ここでも若干並んだが、グッズに比べたら実にかわいいもの。番号札を貼ったビニール袋を渡されて終わり。これで500円は高いのか妥当なのか。貴重品だけは身につけてコートや荷物を詰め込み、Tシャツとタオルという超軽装で荷物を預ける。既に開場時間を過ぎているので、入り口に移動。Bブロックの入場口はグッズ/クロークのブースから一度外に出なくてはならないのだけど、Tシャツ1枚なもんだから寒くて死ぬかと思った。僕のチケットはB2ブロック。ステージに向かって右側のエリアになる。今回はメッセのホールを2つぶち抜いてアリーナを作っているのだけど、そのホール間にでかい柱があって、場所によってはこれがステージを見るのに非常に邪魔になる。柱が視界に入らないよう、ちょうどステージから正面近くのエリアに陣取った。まだそんなに人口密度は高くない。

 18:00を過ぎたあたりからどんどん周りに人が増え始め、18:20を過ぎるとそこかしこで歓声が上がり始める。18:30(開演時間)の前後からはBGMの曲が終わる度に歓声と拍手。そういやレディオヘッドの「CREEP」とかかかっていた。開演時間からおよそ30分が過ぎた頃、客電が消える。耳を劈く怒号のような大歓声。ステージ後ろに大きな赤い星が浮かび上がり、「インターナショナル」(共産主義の有名な歌)が流れる。4人が登場、来た!曲が終わろうかという時にザックのMC"We are rage against the machine, from Los Angeles!"でもう血が沸いた。一気に前方へ殺到する群衆。既に僕の回りもおしくらまんじゅう状態。1曲目は「Testify」。サビで飛ぶ、跳ねる。腕を上げる、吼える。全身を廻る血液のスピードが軽自動車からF1になったような感じ。PAは音量的にはそれほど大きくなく、Bブロックだと下手したら客の大歓声でバンドの音が消されるくらいだった。それでも演奏の迫力はさすがにレイジで、8年のブランクを全く感じさせない(まあ、ザック以外はずっと一緒にやっていたわけだし)鉄壁のアンサンブル。ザックの声も全く衰えた様子はなく、この5年間幾度となく聞いてきたライヴ盤の迫力と寸分違わぬパフォーマンスを聞かせる。ここぞというときのジャンプの高さも変わっていない。トム・モレロのギターはおなじみのスクラッチ奏法はもちろん、どんなエフェクター使ってるんだと思うような音を次々に繰り出す。やっぱりすごい。
 レイジのサウンドの興奮と快感というのは、つまるところ「タメ」と「爆発」だと思う。曲のメインとなるリフやサビの前に、一度ボリュームを抑えて身を潜めるようなパートがある。テンションを上げていき、抑えて溜め込んだエネルギーを一気に開放することで異常なまでのカタルシスが得られる。例えば「Bulls On Parade」だとラストのリフ手前でトムのワウ・ギターのみになり、その後の金槌で殴られたかのような怒涛のリフへと突入する。「Bullet In The Head」なら、最後のリフの前に演奏が一度収まってザックが「Bullet In Your Head」というフレーズをぼそぼそと繰り返す。その間にどんどん熱が上がっていき、バンドの音もクレッシェンドし、ザックの「ブレットインヨア・・・ファッキンヘェェーーーーッド!」のシャウトで爆発する。観客の跳躍力と運動エネルギーもこのときがピークになる。その、タメと爆発の繰り返しがあまりにも絶妙なのだ。もちろん、この音の中でそんなことを冷静に考えながら絶叫していたわけではないが、そういうことなんじゃないかと思う。自分でもびっくりするくらい飛んだような気がする。その爆発と同時に、英語のわからない日本人でも大合唱できるシンボリックなフレーズが用意されている(大抵は曲のタイトルなわけだが)。そのときに腕を上げ、ジャンプし、大絶叫する時の気持ちよさと言ったら。こと、ライヴでのカタルシスという意味で、ここまで完成されたバンドというのはやはり稀有であると思う。ザックも所々決めのフレーズを客に任せるシーンも多く、自分たちの音楽の性格についてある程度自覚的なのだろうと思う。そのサウンドの即効性、有効性は古くなるどころかますます冴えているとすら感じた。いわゆる「ラップ・ロック」なんて既に過去のものとなりつつあるのに、である。レイジが再結成したことでここまで大きな期待を集め、さらには解散時をリアルタイムで知らないようなファンまでもが今回の公演に集まっているという事実は、そのサウンドの有効性という意味において他に比するものがなかったからだとも言えるだろう。
 もっと言えば、彼らが解散した1年後に9.11テロが起こり、その後の世界情勢は一変してしまったわけだが、今聞いても彼らの曲の中に描かれている理不尽な抑圧と怒りの構造は変わっていない。どころかむしろもっと悪化しているとも言える。彼らの曲の政治性がカビの生えたアジテーションではなく、今も生々しく世の中に突き刺さっていると言う事実も、僕の興奮を後押ししていた。演奏自体もアレンジもほとんど変化はないが、「Sleep Now In The Fire」で一部MCが追加されていた。セットリストは下記を参照されたいが、ほとんどベストに近いものだったと思う。大阪ではやらなかったという「Know Your Enemy」も「Wake Up」も演ったし。贅沢を言えば「Kick Out The Jams」が聞きたかった、というくらいか。アンコールの「Freedom」〜「Killing In The Name」の流れも必殺すぎ。本編1時間、アンコール入れても75分というステージだったが、物足りないとは感じなかった。逆にこれ以上やられたらこっちの身がもたない。Tシャツは汗でビショビショだが、会場を出る長蛇の列と、今度はクローク待ちの列がずらっと並んでいてなかなか着替えることができない。屋内とはいえ寒いので、マジで風邪引くかと思った。あと、クローク黄色の列は手際悪すぎ。

 さて、ここまで来たら問題はレイジとしての新しい音源が出るのか?ということになる。レイジとして反政府なメッセージを叩きつけるのであればこの8年間の間にこそ、と思った人は少なくないはず。そもそも彼らのようなバンドが金や話題性で再結成するとは考えにくく、このタイミングでレイジとしての活動を始めるのには何らかの意図がやはりあるはずだと思うのだ(ザックのソロも、オーディオスレイヴも行き詰った、とも考えられるが)。少なくとも今のこの世界の中で、あるいはアメリカという国の中で、言いたいことは山ほどあるだろう。期待し過ぎないで、静かに待っていたい。

■SET LIST
1.Tesify
2.Bulls On Parade
3.People Of The Sun
4.Bombtrack
5.Vietnow
6.Bullet In The Head
7.Know Your Enemy
8.Renegades Of Funk
9.Guerilla Radio
10.Calm Like A Bomb
11.Sleep Now In The Fire
12.Wake Up

13.Freedom
14.Killing In The Name