無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

時代の音。

GAME(DVD付) 【初回限定盤】

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 Perfume現象、という言葉があるのかどうか知らないけれども、そのひとつのピークを刻むであろう決定盤。「ポリリズム」「Baby cruising Love」「チョコレイト・ディスコ」などのシングルを当然網羅しているし、それだけではなく、新曲群もおしなべて高品質のエレクトロ・ポップスとなっている。うしろの音はポップではあるけれども最先端を行くバキバキのテクノだったりトランスだったりハウスだったり。ちょっと、若干、いやかなりナメていたという方もこれは驚くのじゃないか。J-POPの文脈に忠実に沿っていると思わせながら、巧妙に逸脱していくこのサウンドは、確信犯的に作られたものとしか思えない。すごい完成度だと思う。
 中田ヤスタカという人は、恐らくとても理論的(数学的に、と言ってもいいのかもしれない)に音楽を構築する人なのじゃないかと思う。こういう音にこういうメロディーでこういう言葉が乗るからこういう曲になるよね、みたいな、彼自身の中で方程式がきちんと確立されていて(それが彼にしか理解できないものだったにしても)、そこに適切な素材を代入していくことで音楽を組立てていくような、そんな感じがする。このキャッチーさは、「1+1=2」のようにこれしか答え無いです、というくらいパーフェクトに耳になじむ。90年代、全盛期のピチカート・ファイヴをちょっと思い出したけど、Perfumeの方が圧倒的に間口が広い。これだけ音楽的に好き勝手に作られているのに、中田ヤスタカ氏本人のエゴよりも聞き手にどう届くか、どう届けるか、という結論に向かって全てが構築されているからだと思う。正直、今のPerfumeを見て「やられたー」と思っているアーティストは少なくないんじゃないだろうか。
 3人のヴォーカルもあくまで全体のサウンドを構成する一要素として処理されている。なので、感情を抑えているような歌い方になるし、その声も機械を通して無機質に加工される。ロボットが歌ってもおかしくないような音なのに、歌詞が普通に10代の女の子している胸キュン(死語)なものなのでほのかな体温が感じられる。これだけ匿名的な音でありながら、聞いた瞬間Perfumeだとしか思えない記名性。全てが絶妙の匙加減であり、奇跡的なバランスとして成り立っていると思う。
 そのバランスは音楽だけではなくPerfumeというユニットそのものにも言える。アイドルとしてだけ見れば正直微妙(ルックスも含めて)だと思うが、あまりにもプロフェッショナルなその音により玄人受けもする旬なサウンドとしての価値が、現在のPerfumeを特殊な位置に押し上げているのだと思う。Perfumeとしての一番オイしい旬を完璧に刻み付けたのがこのアルバムであり、これを聞くなら2008年の今しかない、というアルバムだと思う。5年前のt.a.t.u.じゃないけれども、こういう旬に乗っかって思いっきり騒ぐのは大衆音楽というものを聞いていて一番気持ちがいい瞬間だ。実は本人たちもその旬に自覚的で、Perfumeである自分自身を楽しんでいるような気もする。いまどきのアイドルはそのくらいでないと、とも思う。