無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

移民の歌。

Icky Thump

Icky Thump

 ホワイト・ストライプスは、ギター+ドラムという変則的な編成のみならず、その音楽やビジュアルに対してルールというか枠を設けているバンドだが、今回は珍しくその枠から大きく逸脱した試みを行っている。最新の設備があるスタジオでのレコーディングや、バグパイプ・ホーンセクションなどの外部楽器の導入などだ。普通のアーティストなら問題にならないようなことだが、彼らの場合はこうしたことが大きな意味を持っていると思う。それによるサウンドの違いもそうだが、それ以上にそうした試みを行うに至った動機そのものが、今作全体を通じて根底に流れているように思うのだ。
 タイトル曲はメキシコからの移民に対しての政策について、アメリカ政府へのストレートな批判というべき内容になっている。こういう内容を書くのも彼らにしては珍しいことだろう。彼らは、非常にトリッキーなアプローチではあるが、ブルースという音楽を現代的に解体し、再解釈するということを一貫して行ってきたバンドだ。その中で、元々はアフリカから奴隷としてアメリカに連れてこられた黒人の歌から発生したブルースという音楽に対して、「移民」というキーワードが彼らの政治的な発言を後押しするのも頷けることではある。生まれてもいないはるか昔の話に想いを馳せるよりも、今目の前で起こっていることと自分の追い求める音楽を繋げて、2007年のブルースを作り出すこと。ホワイト・ストライプスがやろうとしているのはそういうことではないのだろうか。外部楽器の導入もそういう中で自然と出てきたことなのだろう。
 全体としては、前作よりもギターが前面に出ているし、メロディーも、リフもフックのある、聞いていて気分が高揚する音になっている。彼らのアルバムの中でも割と派手なサウンドと言っていいだろう。それでいて、落ち着いてじっくり聞くと聞くたびに体に染みてくる。いいアルバムだと思う。