無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

君がいるだけで。

J-POP(初回生産限定盤)

J-POP(初回生産限定盤)

 オリジナルとしては『VOXXX』以来実に8年ぶりの新作。その間もWIRE中心とした不定期なライヴ活動やスチャダラとのユニットもあったとは言え、電気単体としてのオリジナルアルバムが再び世に出たことは素直に喜ばしい。しかし8年と一口に言っても小学生が大学生になるくらいの相当に長い時間である。電気グルーヴというユニットが何がどうすごいのか、これまで何を残してきたのか、ということをリアルタイムで知らない世代も今では多いことだろう。そしてそんな若い人たちがこのアルバムを聞いても、きっとそこのところはよくわからないのではないかと思うのだ。問答無用の内容で聞くものを震撼させるような、シーンに大きな影響を与えるような、そんなアルバムではない。8年ぶりに電気グルーヴがオリジナルアルバムを出しました、というだけなのだ。それ以上でも以下でもない。でも、それが嬉しい。
 サウンド的に言えば卓球のソロワークに近く、曲によってはボーカル抜きでそのまま使えそうなものもある。基本的にはシンプルな音の積み重ねで成り立っているトラックが主だ。しかし、瀧の声と卓球のボーカルが入ることで一気に電気になる。特に今作は卓球ボーカルの割合が多く、それはつまりメロディーの立った歌モノが多いということなので、全体としてポップな印象を受ける。
 前作『VOXXX』は言葉のアルバムというか、瀧と卓球の中2病言葉遊びと悪ふざけが狂気一歩手前まで行ってしまったような凄まじいアルバムだったわけだけど、このアルバムはそうではない。そうなる前に意図的にブレーキを踏んでいるような感じもする。さすがにあの延長線上で次作となると、本当に向こうの世界に行くしかなくなるわけで、そこは避けたのだろう。ただ『VOXXX』で、ピエール瀧という存在さえあればそれは電気グルーヴなのだ、ということは証明できたのでそれ以上踏み込む必要もなかったとも言えるかもしれない。8年ぶりだからといって肩肘張って意気込んで作ったという感じではなく、これなら数年前でも作れたんじゃないのかという気もしないでもないが、きっと数年前では作れなかったんだろう。『VOXXX』という狂気の世界から距離を置いて客観的に電気グルーヴを見るためにはこれくらいの時間が必要だったのだ。その間に彼らを取り巻く状況もシーンも大きく変わったと思うのだが、そこに無理に合わせようとしていないのもいい。まだ電気は続くんだな、ということがわかったので、それだけでもOKだ。「少年ヤング」での篠原ともえのボーカルが非常に大人っぽくて、ああ、時は流れているんだな、とこれまたしんみりしたりもする。
 毎年、ライジングサンにLOOPA NIGHTがやってくるけれども、電気としての出演が無くても瀧は勝手にやってきてMCをやっている。その後ろで卓球がDJをやっているのを見るのが僕はすごく好きだ。そういう2人なのだ。