無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

灼熱の饗宴。

スガシカオ FUNK FIRE’08
■2008/11/17@Zepp Sapporo
 現在行われているスガシカオのツアーは「FUNKAHOLiC」「Hitori Family Sugar」そしてこの「FUNK FIRE」と、3タイプのフォーマットで回っているらしい。それぞれどういう色分けなのか具体的にはわからないのだけど、「FUNKAHOLiC」がいわゆるホールツアーで、「FUNK FIRE」はライブハウスでやっているようだ。スガシカオ曰く「札幌は本当はFUNKAHOLiCでやりたかったんだけどホールが無かった」らしい。確かに、現在札幌は市民会館が無くなってしまい彼クラスのアーティストがやれるホールは厚生年金会館しかないので、そこが埋まっていたらどうしようもないのだろう。個人的には新作のファンク志向を受けて、ホールよりむしろライヴハウスで見たかったのでちょうどよかった。
 ところで、スガシカオは公式ページで「FUNK FIREに参加される皆様へ」と題してメッセージをUPしている。要は、椅子席のホールじゃなくスタンディングで休憩なしぶっ続けでファンクやり続けますよ、バラードやミドルテンポの曲、ポップスもほとんどやりませんよ、モッシュゾーンは危険なのでライブ初心者の方やお子様はご遠慮ください、ということ。普段ライヴに行き慣れてる人からすれば何をいまさらと言うことでしかないのだけど、スガシカオのライヴに来るお客さんはそういう人だけではないと言うことをスガシカオサイドも良くわかっているのだろう。実際、コンサートとか久しぶりーみたいなOLさんや、妙齢のご婦人方が本当に多いこと。男女比で言えば5:1、いやそれ以上と言うくらい女性が圧倒的。そういう状況の中で自分の愛するファンクという音楽をどうやってエンターテインメントとして真っ直ぐ届けるか、というのはスガシカオにとってもかなりハードルの高い試みであるだろう。実際、それに挑む気合のようなものを随所に感じることができた。
 バンドメンバーは坂本竜太(bs)・岸田容男(dr)・田中義人(gt)・林田裕一(key)の4人。技術的には当然上手いのだけど、以前の落ち着きや渋みのあったFamily Sugarバンドよりはもっとアグレッシブで熱いプレイを聞かせてくれる。当然、新作のブリブリファンクから、と思ったら「Thank you」でスタート。確かに、この曲もかなりヘヴィーなファンクではある。歌詞のどぎつさも含めて個人的には好きな曲だし、スガシカオ本人もライヴではこの曲を結構ポイントになるところに置いている気がする。「バラードやミドルテンポの曲、ポップスもほとんどやりません」と言う割には、「黄金の月」とかやったりする。リズム的にはファンキーな部分はあるかもしれないけど、一般的にポップスとして分類される曲だと思う。というかスガシカオの音楽自体が「ファンクを彼なりに咀嚼したポップス」であり、「ロック/ポップな要素を内包したファンク」ではないと思う。この辺の線引きは微妙だと思うし、スガ本人も自分の音楽をどこに定義しているのかわからないが、彼が10年間シーンの第一線でセールス的にも成功しているというのは基本「ポップス」であるからだと思う。因みに、この日のセットはスガ曰く他のFUNK FIREとは若干違う特別仕様だったらしい。しかし、やはり「ファンクをやる!」と気合入れているだけにグルーヴの重心はかなり低く、坂本竜太のベースを基本としたサウンドは黒く太く渦巻いていた。新作からの曲が続く中盤はスガシカオの声よりもバックの音聞いてるだけで心地良かった。唸るベースにワウ・ギター、キレのいいクラヴィネットに16ビートのドラム。ああ、気持ちいい。「バナナの国〜」はボーンセクションがないけど、アコースティックのカッティングをフィーチャーしよりタイトにバンドサウンドになった感じ。「Call My Name」から「FUNKAHOLiC」の流れはアルバムと全く一緒でああ、要はスガシカオってこれがやりたかったのねと思わせるようなねっとりしたファンク。終盤はノンストップでこれでもかというくらいに濃密なファンクネスを垂れ流す。「コノユビトマレ」などのアゲアゲな曲で盛り上げて、「イジメテミタイ」ではエロくクドくじっくりと攻める。本編ラストはミラーボールも全開で「午後のパレード」。客層が客層なので隣の人と体がぶつかるような盛り上がり方ではないのだけど、それでも踊り続けていたらじっとりと汗ばんできた。
 アンコールでは、なんとオフィスオーガスタの後輩、スキマスイッチの大橋卓也が登場。翌日に同じくZeppでライヴがあるらしい。僕は別にスキマスイッチに興味はないのだけど、好きな人にはたまらないサプライズだったでしょう。「夜空ノムコウ」をツインボーカルで歌うサービスプレイ。「代わりにスガさん明日僕のライブ出てください」つってOKしてたけど、実際出たんだろうか。アンコールは坂本竜太がパーカッション(コンガ)をプレイしてのノンストップ・ファンク。いわゆる「ワシントン・ゴーゴー・ファンク」と呼ばれるジャンルで、僕も詳しくは知らないけど80年代にトラブル・ファンクあたりがやっていた感じのものじゃないだろうか。基本同じテンポで何時間もぶっ続けで演奏し、その中でどんどんコードや曲が変わっていくというもの。スガ曰く「今ワシントンでしかやられてなくて、3つくらいしかバンドがないの。しかもそのうちのひとつは70いくつのおじいちゃん(チャック・ブラウンのことかな?)で、その人が死んだら2つになっちゃうの。そういうマニアックなファンクなんだけど、聞きたい?」そう言われてNOと言う客もいるわけがない(笑)。セッション風にリズムパターンを演奏した後、「Go!Go!」に。そしてちょっと意外で「たとえば朝のバス停で」に続き、ラストはなんとフライングキッズの「炎(ファイヤー)」に!まっさかこんな曲やると思ってなかったので驚いた。元々はオハイオ・プレイヤーズの曲でフライングキッズが2作目『新しき魂の光と道』で日本語詞をつけてカバーしたものだ。フライングキッズもまた、ファンクとポップスの間で揺れ動いていたバンドだけれども、彼らのこの曲を持ってきたところにスガシカオの絶妙な自己認識と決意を感じることが出来たような気がする。スガシカオがこのFUNK FIREでやりたかったことの全てが腑に落ちたような気がした。いやあ、本当にうれしかった。
 バンドが引き上げ客電がつき終演のアナウンスが流れても拍手は鳴り止まず帰る人もほとんどいない。なんとなく来るんじゃないかなと思ってたら、来た。おねだりしてみるもんだ。スガシカオが女王様だったら「欲しがり屋さんだね!」とムチを振るったことだろう。ラストは「ストーリー」で締め。こういうスタンディングのライブハウスでスガシカオのライヴを見た記憶と言うのは確かにほとんどない。しかし、こういう濃いいライヴをやろうとするならば、この近い距離感というのは絶対に必要だろう。実際、会場のキャパを生かしたセットだったと思うし、演奏も含めてこういう音楽をこういう会場でこういう風に鳴らしたいんだ、というステージ上からの意思がしっかりと伝わるライヴだったと思う。今まで見たスガシカオのライヴの中で個人的には一番と言ってもいいと思う。楽しかった。今度FUNK FIREやる時はホーンセクションも入れてスライ&ザ・ファミリーストーンアース・ウィンド&ファイアーくらいな感じでやってくれたら最高だ。

■SET LIST
1.Thank You
2. NOBODY KNOWS
3.フォノスコープ
4.黄金の月
5.13階のエレベーター
6.sofa
7.プラネタリウム
8.潔癖
9.バナナの国の黄色い戦争
10.Call My Name
11.FUNKAHOLiC
12.19才
13.リンゴ・ジュース
14.コノユビトマレ
15.奇跡
16.イジメテミタイ
17.午後のパレード
<アンコール1>
18.夜空ノムコウ(with 大橋卓也)
19.Go!Go!
20.たとえば朝のバス停で
21.炎(ファイヤー)
<アンコール2>
22.ストーリー