無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

また新しき魂の光と道。

エヴォリューション

エヴォリューション

 フライングキッズ、実に12年ぶりのオリジナルアルバム。2007年のライジングサンロックフェスティバルで復活を果たしたフライングキッズだが、あの時点では1回限りの再結成なのか、コンスタントに続いてゆくものなのか、公式にアナウンスはされていなかったと記憶している。この再結成が一発で終わらずに続いているのは、ライジングサンのステージが非常に盛り上がり本人たちも手応えを感じたであろうことが大きいのだと思う。ただ、この新作までに2年の月日を要したと言うことは、ライブで演奏することと新しく音源を作ることの違いがあったのだと思う。乱暴に言えば、ライブならば勢いとノスタルジーだけでも盛り上がるし、成功することはできる。しかし新曲を世に問うということは今の時代においてどれだけ有効な音と言葉を提示できるか、自らに向き合わなくてはならない。果たして10年ぶりに集まったフライングキッズにそれができるのかどうか、自分たちで確かめる時間が必要だったのだと推測する。元々、メンバー間の不仲等ではなく、純粋に音楽的な行き詰まりによって解散を選んだバンドなので、再結成して何を鳴らすかということにはかなり気を使ったのではないだろうか(もしかしたら、新作を出すことに二の足を踏むメンバーもいたかもしれない)。
 フライングキッズはそのキャリアの後期に行くに従いどんどんポップ性を高めていったが、再結成してからのフライングキッズは、ライブでも初期のファンク中心の曲を多く演奏している。汗臭く、泥臭く、暑苦しいファンク。本作も、基本的にはソウル/ファンク基調の曲が多い。僕が本作をいいと思ったのは、きちんと年を取った音と言葉になっているな、と思ったことだ。今年の石狩でも披露した「激しい雨」はまさにそういう曲で、この時代の40代だからこそ歌える人生賛歌になっている。昔と同じことをやっても意味がない。この10年の間に各メンバーがミュージシャンとして、人間として、どういう年月を重ねどういう経験をしてきたのか。それが音としてにじみ出てこなければいけない。『EVOLUTION』というタイトルからはそんな意思も見える。図らずも、それは同じく昨年新作を出したユニコーンが見事に成功して見せたことでもある。「ソウルシンガー」は、浜崎貴司の新たな決意を感じさせる曲だし、忌野清志郎に捧げたのであろう「さよならレインボウ」も、さりげないがとても感動的だ。往年のファンがまたフライングキッズの音が聞けたので良かったなというだけではなく、今の若いファンが聞いても楽しく意味のある音になっていてうれしい。
 CSのフジテレビNEXTで放送された復活ドキュメンタリーも非常にいい番組だった。各メンバーがインタビューで語っていたのは、フライングキッズという場所がもう揺るがないと確認できたと言うことだった。ライブやリリースがなく、表立った活動がないことがあっても、バンドそのものが解散することはもうない、というのだ。40超えてこういう場所があり、こういう境地に達することは素晴らしいと思う。幸せであるように、心で祈ってます。