無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

泥臭き洗練の道。

魂のゆくえ

魂のゆくえ

 オリジナルとしては『ワルツを踊れ』に続く、くるり約2年ぶりのアルバム。前作はクラシックに大きく傾倒したコンセプチュアルなアルバムであり、その後のライブ活動でもオーケストラとの共演を行うなど、その方向性をかなり極めようとしていた。それはライヴアルバム『Philharmonic or die』として一つの完結を見る。本作はそこからまたシフトチェンジするのだろうと思っていたが、やはり大きく印象を違えたアルバムになっていた。ブルースなど、ルーツミュージックに根ざしたサウンドが目立つ、一聴して地味な印象のアルバムである。が、世武裕子のピアノ(とコーラス)を前面にフィーチャーした隙間のあるアレンジは曲そのものの魅力をより引き出している。個人的には「太陽のブルース」「つらいことばかり」「かごの中のジョニー」「デルタ」などがフェイバリット。少ない音符で広がりのある情緒を感じさせる曲が多いと思う。
 歌詞の多くはシニカルでネガティブな内容のものが多いが、第三者的にドライでユーモアのある視点で描かれているため、テーマは重いが決して暗くはない。散文的でありながら、かつポイントポイントでしっかりと自己主張を入れる手際は上手い。詞の面でも曲の面でも、ソングライターとしての岸田繁の能力が際立つアルバムになっていると思う。
 くるりというバンドは昔からアルバムごとにそのサウンドコンセプトが大きく変わる傾向があり、今作もその例に漏れない。それがくるりの魅力でもあり、トータルとして彼らのサウンドを分かりづらくしている部分でもあると思う。例えばプライマル・スクリームも同じような傾向のあるバンドだが、プライマルズの核がパンク・ロックンロールであるとすれば、くるりの核はブルースじゃないかと思う。くるりというバンドの本質とは、非常に泥臭いものだと僕は思う。サウンドのコンセプトを明確にし、その方向に大きく振れること自体が表現のテーマとなる場合もあるが、今作でのくるりのシフトチェンジはそうではなく、自らのルーツや核をどっしりと再確認するようなものではないのだろうか。そしてその中で、過去にいろいろやってきた音楽的な蓄積がしっかりと血肉になっている、と言うことなのだろう。理由もなく、突然こういうアルバムができたわけではないのだ。


くるり鶏びゅ~と

くるり鶏びゅ~と

 くるりにとって初のトリビュートアルバムは、くるりが生み出してきた楽曲の多様性をそのまま物語るような内容になっている。参加アーティストの顔ぶれもそうだが、彼らが演奏している曲が思わずうなってしまうほどにどんぴしゃなのがいい。矢野顕子奥田民生松任谷由実リトル・クリーチャーズなど聞き所は多いが、個人的にベストトラックは9mmの「青い空」。元々こいつらの曲だったんじゃないかと思うくらいにずっぱまりである。