無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2度目の「変身」。

共鳴(初回生産限定盤)(DVD付)

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 チャットモンチー6枚目のオリジナルアルバム。前作から橋本絵莉子の入籍・出産を経ての製作となったため、彼女らのアルバムとしては最も長い2年7カ月のインターバルが空いている。昨年のライブ活動復帰から恒岡章、下村亮介をサポートとした4人体制となったことが話題になった。恒岡は以前「性転換したらチャットモンチーに加入できるのだろうか」とツイートしたこともあるが、ラブコールが実ったということだ。
 レコーディングではこの「男陣」と呼ばれるサポート体制と、世武裕子、北野愛子の「乙女団」サポートによる体制、橋本と福岡の2名による体制がバランスよく配置されている(1曲のみ橋本・福岡・恒岡の3名体制)。当然ながらこのサポートによるバンド編成の変化が本作の肝で、チャットモンチーの歴史的にも前作で2名体制になった時と同じくらい重要な音楽的変化をもたらしている。
 『変身』の2名体制だった時は「何でもあり」というアイディア先行の勢いがあり、本職の楽器ではない下手さや音の隙間もユニークな魅力として受け入れられるものだった。ライヴにおけるアクロバティックな演奏は感動的ですらあり、「この2人の中に入ってチャットモンチーになれる人間はこの世にいないのではないか」と思わせるほどだった。しかしやはり限界は感じていたのだと思う。プロのサポートが脇を固めたことで、音のスキを魅力に転化したり言い訳にすることはできなくなった。サウンドを強化することで、本来の曲の良さや魅力をストレートに最大限表現している。そしてそれがチャットモンチー最大の武器であり、チャットモンチーの唯一性の根拠であることが本作で証明されていると思う。全うなロックバンドの体制になったことでむしろ逆説的に「あ、チャットモンチーってやっぱすごいバンドだったんだ」と分かってしまう。そんなアルバムになっている。「男陣」「乙女団」をどの曲に配置するかのセレクトも非常に的確で、現サポート体制でのバンドの魅力をうまく引き出す構成になっていると思う。そしてこの中に2人体制の曲がある種の「異物」としてあるからこそ引き立つという形にもなっているのだ。
 あと思ったのは、橋本の書く歌詞が全く変わっていないこと。勿論みんながそうというわけではないが、女性アーティストの場合、結婚や出産を経て歌詞の視点や世界に変化が現れる例も多い。それが彼女の場合驚くほど変わっていないのだ(少なくとも僕にはそう見える)。この軸のブレなさがチャットモンチーの強さの元なのかもと思ったりした。
 チャットモンチーのアルバムとしては今までで一番音楽的に完成度が高いと思うし、何度でも楽しめるアルバムだと思う。好きです。