無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

産みの苦しみの中で。

サカナクション SAKANAQUARIUM2018 "魚図鑑ゼミナール"
■2018/06/14@Zepp Sapporo

サカナクション、ベストアルバム『魚図鑑』を引っ提げてのツアー。

『魚図鑑』はわかりやすくキャッチーな曲を集めた「浅瀬」、ちょっとマニアックな趣向を凝らした「中層」、テーマも重くディープでアングラな表現である「深海」と、自分たちの作品を階層的に分類してディスクごとに収録したベストになっています。その世界をより深く理解してもらおうという趣向でこのライブは構成されていたと思います。

まず「chap.深海」からスタートします。この時点で深海、中層、浅瀬と盛り上がっていく構成なのかなと予想しました。そしてこの深海パートが良かった。いきなり盛り上がるのではなく、じわーっと静かに音楽が会場に染み渡るような空気感。普段のライブなら構成上中盤に来るこのディープな世界から始まるというのは今回のツアーの大きなポイントだったと思います。

次は中層と思ったらいきなり「新宝島」のイントロが流れてきます。あれ?と思ったらすぐに消えて、やっぱり「中層」に。この肩透かし感。個人的には中層が一番好きですね。キャッチーなメロもあり、音楽的には結構深くマニアックなものもあり。サカナクションがやりたい音楽の形が最もビビッドに出るのがこの「中層」だと思います。

セット的には『GO TO THE FUTURE』あたりの結構古い曲多が多かったです。打ち込みや同期を使ってはいても、このあたりの曲は基本バンドの音が中心です。なのでシンプルなバンドアンサンブルが楽しめるセットでした。ペニーレーンとかでやっていたデビュー初期のライブを思い出しながら見てました。

メンバー紹介の時に、話が脱線してたのが面白かった。ルーキーのサビは元々札幌にいたときに、前のバンドのダッチマンをやっていたころにあった曲だとか、新宝島のサビもその頃からあった、みたいな話をしてました。

そしてホールツアーの詳細も発表されました。新作が出ていれば新作のツアーになるはずですが、現状のペースだと確約はできないと一郎君は言います。曲は出来てるけど、詞が書けないのだと。草刈姐さんは「いいメロディー出来てるんだよ」と言ってました。一郎君は「ここまで来たらメンバー全員満足できないものは出さない。」と言い切りました。時間が経った分、ハードルも高くなっているのでしょうが、乗り越えてほしいと思います。

その中で、世間がサカナクションに求めることと、彼らがやりたいことのズレというのは確実にあるのでしょう。例えば、今回みたいにいきなり「深海」モードで始めるというのは、フェスではできないと言ってました。やればいいじゃん、っていうのはわかるけど、実際に自分の立場になったら怖くてできないと。(ただ、サカナクションフジロックのステージでは今回の構成に近いセットでした)

山口一郎は松任谷由実とラジオで話をしたそうです。その中で自分のやりたいことがポップスとして成立しない気がする、と相談したと。でも松任谷由実は「あなたはもうポップスを鳴らしてるわよ。」と言ったそうです。「あなたの音楽を支持している人がこれだけいるんだから、あなたがやりたいことをやれば、それはもうポップスなのよ。」と。ユーミンだからこそ言える含蓄ある言葉ですが、これで一郎君は肩の荷が少し下りた気がしたと言ってました。

ポップスとアンダーグラウンド、J-POPとクラブミュージック、いろいろなものの狭間で、それをつなごうとするのがサカナクションの歴史でした。その中で自分たちのアイデンティティをもう一度見直そうという時期に来ているのかもしれません。とてもタフな状況にあることは想像できます。我々ファンは信じて待つしかありません。大丈夫、彼らなら。

(chap.深海)
1.朝の歌
2.mellow
3.フクロウ
4.enough
5.ネプトゥーヌス
(chap.中層)
6.明日から
7.ネイティブダンサー
8.三日月サンセット
9.ワード
10.白波トップウォーター
(chap.浅瀬)
11.アルクアラウンド
12.ライトダンス
13.表参道26時
14.ルーキー
15.アイデンティティ
16.ミュージック
17.新宝島
18.陽炎
<アンコール>
19.夜の東側
20.開花
21.夜の踊り子