無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ただの「芸術」ではない。

Cornelius Mellow Waves Tour 2018
■2018/10/24@札幌市教育文化会館大ホール

昨年のツアーに続き、「Mellow Waves」を冠したツアーが今年も敢行される。日本だけでなく世界中をツアーしてきているので、メンバーとの呼吸も映像とパフォーマンスのシンクロ率もさらに精度が上がっていることだろう。

昨年の『Mellow Waves』に続き、今年は「デザインあ」のサウンドトラックを2枚、そして新作『Ripple Waves』をリリースしている。『Ripple Waves』は『Mellow Waves』以降の楽曲を収録していて純粋な新作というよりはコンピレーション的な色合いも強いが、前作が10年ぶりの新作だったことを思えばこうした精力的な活動は嬉しいことである。

ということで昨年のツアーにさらに新曲もプラスされたセットとなってのツアー。否が応でも期待は高まる。

しかしいきなりのトラブル。1曲目「いつか/どこか」で、おそらく演奏が2小節ほど飛ばしてしまったのだろう。映像に歌詞が出るのだけど、その歌詞と演奏がズレてしまった。映像と音楽のシンクロが肝である彼らのステージにおいて、これは致命的なミス。アンコール前のMCで小山田圭吾も苦笑していたが、弘法にも筆の誤り。稀にこういうこともあるということか。ある意味、人間臭い部分が見れた貴重な機会と言えるかもしれない。

新曲としてセットに加わったのは『Ripple Waves』からの「Audio Architecture」と「Sonorama 1」。特に「Audio Architecture」は音楽を構成する要素がそのまま歌詞になったようなミニマルな曲で、それを映像とともに再現していく面白い構成だった。今後もライブの定番曲として定着しそうな気がする。

メンバー4人の呼吸はさすがの一言で、タイミング含めてかなりの練習を積んでいるとは思うけど、それにしても何度見ても感嘆する。1曲目のミスが象徴するように、1小節、音符1個間違えば曲全体のパフォーマンスが崩れてしまうのだ。その緊張感はどれほどのものか知れない。

今回はライブハウスではなくホールでの公演だったので、殆どの観客はアンコールやラストまで座ったまま鑑賞していた。そのためか緊張感はより強く感じられた気がする。決して観客席と密にコミュニケーションを取るタイプのライブではないけれど、昨年のツアーのようにライブハウスで見る方が個人的には好きだ。

前に「鑑賞」と書いたけど、本当に芸術作品を見るような雰囲気になってしまう。コーネリアスの音楽やライブにはそれだけではないグルーヴがちゃんとあるので、それを感じるには僕はスタンディングの方がいいと思う。

1.いつか/どこか
2.Point Of View Point
3.Audio Architecture
4.Helix/Spiral
5.Drop
6.Another View Point
7.The Spell of a Vanishing Loveliness
8.Mellow Yellow Feel
9.Sonorama 1
10.未来の人へ
11.Count Five or Six
12.I Hate Hate
13.Surfing on Mind Wave Pt2
14.夢の中で
15.Beep It
16.Fit Song
17.Gum
18.Star Fruits Surf Rider
19.あなたがいるなら
<アンコール>
20.BREEZIN'
21.Chapter 8~Seashore And Horizon~
22.E


Cornelius (full show) - Live @ Sónar 2018

Ripple Waves

Ripple Waves

共に生きるバンド。

eastern youth 極東最前線/巡業2018~石の上にも三十年~
■2018/10/06@cube garden

イースタンユースのライブを見るのは本当に久しぶりで、2015年のツアー、つまり二宮友和在籍時のラストツアー以来。

それ以降、フェスやツアーで見る機会はあったものの、都合がつかず見れずじまいだった。ということで個人的には今更ながら村岡ゆか加入以後初めてのライブということになります。

1曲目は昨年のアルバム『SONGentoJIYU』から「ソンゲントジユウ」。もう、この時点で涙腺がヤバかったです。自分でもゆるゆるだなと思うのだけど、久々に浴びた歪んだギターの轟音と吉野寿の声に、それだけで涙が出てきてしまった。「夜明けの歌」「街の底」「沸点36℃」と続いた序盤はいきなりクライマックスかというくらいのテンションでした。

ツアータイトルにもあるように結成から30年。吉野寿は50歳になった。大ヒットとは縁遠いまま、それでも聞いた者の心に確実に楔を打ち込みながらここまで来た。その歩みを確かめるように、懐かしい曲も多く演奏されていた。

初めて見た村岡ゆかのプレイはもちろん二宮友和とは違う。けれど、個人的には違和感は感じなかった(すでに2年以上経っているのだから当然と言えば当然だけど)。元々イースタンユースの大ファンだったということもあってか、バンドの世界を理解して邪魔しないように、そして丁寧にプレイしているように見えた。ブレイクの部分や曲の締めではまばたきもせず、その呼吸を確かめるように吉野を凝視していたのが印象的だった。

僕とイースタンユースの付き合いも軽く20年を超えた。社会人になって色々と迷い葛藤していた20代後半の頃、とにかくイースタンユースを聞いていた。札幌出身の自分にとってはイースタンユースは地元のバンドという感覚があるけれど、吉野自身はそうでもないらしい。「札幌に住んでたのって、実質2、3年ですよ。その前は帯広で、あとはずっと東京。」それでも、ツアーで帰ってくると当時の記憶が蘇るらしい。

テレビ塔」を聞いていたら、自分にとって大きな転換点だったここ2,3年のことをぼんやりを思い返していた。やはりイースタンユースは自分の人生にとってとても大事なバンドだ。そのことを改めて再確認させてくれるライブだった。

もうすぐ、雪が降る。

1.ソンゲントジユウ
2.夜明けの歌
3.街の底
4.沸点36℃
5.循環バス
6.街はふるさと
7.ドアを開ける俺
8.月影
9.地下室の喧騒
10.男子畢生危機一発
11.青すぎる空
12.矯正視力〇.六
13.時計台の鐘
14.いずこへ
15.雨曝しなら濡れるがいいさ
16.夏の日の午後
17.砂塵の彼方へ
<アンコール1>
18.テレビ塔
<アンコール2>
19.踵鳴る

SONGentoJIYU

SONGentoJIYU


eastern youth「ソンゲントジユウ」 ミュージックビデオ
循環バス

循環バス

時計台の鐘

時計台の鐘

ひがみと繊細。

関取花 バンドツアー ~あっちでどすこいこっちでどすこい~
■2018/08/14@札幌SPIRITUAL LOUNGE

関取花のライブは、数日前にライジングサンで弾き語りを見たのが初めて。その前からこのツアーのチケットは取っていたのだけど、その弾き語りの歌声が実に素晴らしくて、楽しみにしてました。関取花のことは以前から知っていて曲も聞いてたし、何より同じラジオリスナーとして彼女のことはずっと気になっていました。

で、ライブです。客入れのBGMは北海道出身のアーティストの曲で固めてました。GLAYYUKI玉置浩二松山千春等々。そして時間になり、「ファイターズ讃歌」とともにメンバー登場です。今回のツアーは行く先々でこうした演出をしてるのだそうで、ご当地ファンにはうれしい仕込みです。

6月にリリースしたアルバム『ただの思い出にならないように』から「蛍」でスタート。弾き語りと違い、バンドセットになるとやはり音のダイナミクスが違います。しかしその中心にいるのは間違いなく彼女のギターと歌。息の合ったメンバーとのやりとり(音も、MCも)もパーフェクトでした。

石狩で見た時にテレビや写真で見た時よりもかわいい!と思ったのですが、この1年くらいで10kgくらいやせたのだそうです。
確かに、以前の記憶ではもう少しふっくらしていた気が。新作『ただの思い出にならないように』のジャケットはほぼ正面からとった彼女の写真なのですが、やせた記念にこの姿を残しておこうということだったそうです。タイトルも、リバウンドしないように!という思いが込められているのでしょうね(笑)。

関取花と言えば「ひがみソング」の女王などと言われ、テレビにも取り上げられたりしました。本人的にもそれはそれで露出も増えて聞いてもらうきっかけにもなったので良かったのですが。しかし、逆にそれだけを期待されるというジレンマもあったそうです。そのためなかなか曲ができない時期もあったそうで、前作から少し間が開いたのはそんな理由もあったとのこと。新作にも「あの子はいいな」というひがみソングがありますが、関取花の曲の主人公は酒好きで、おおらかで、大雑把で、少しだらしないというキャラクターが多いです(本人の投影でしょうか)。しかしそれだけでは彼女の歌の世界は説明できません。もっと繊細な部分がなければこんな曲書けないだろうというのがたくさんあるわけです。

今回のライブの白眉は石狩の時にも話に出た融雪機(彼女は「雪溶かし機」と言ってましたが)のCMソング。正確には「モンスター」とぴう融雪機のCMでした。たまたま旅行でこのCMを見た関取花はずっとこのCMを覚えていたそうで、即興でファンキーなラップを披露し、会場大盛り上がりでした。北海道民でもある世代以上でないと記憶にないと思いますけどね(笑)。


全自動パワー融雪機モンスター

MCはいちいちうまいし、ちゃんと笑い取るし、歌もギターもうまいしかわいい。彼女の人柄がそのまま出たような歌声が本当にいいですね。バンドメンバーとの息もぴったりで、本当に癒されるようなライブでした。また北海道に来てくれるのをお待ちしております。

1.蛍
2.初恋
3.バイバイ
4.親知らず
5.石段のワルツ
6.動けない
7.あの子はいいな
8.また今日もダメでした
9.もしも僕に
(融雪機モンスターの歌)
10.しんきんガール
11.オールライト
12.だからベイビー
13.彗星
14.朝
<アンコール>
15.むすめ
16.黄金の海で逢えたなら
17.君の住む街

ただの思い出にならないように

ただの思い出にならないように


関取花 蛍

産みの苦しみの中で。

サカナクション SAKANAQUARIUM2018 "魚図鑑ゼミナール"
■2018/06/14@Zepp Sapporo

サカナクション、ベストアルバム『魚図鑑』を引っ提げてのツアー。

『魚図鑑』はわかりやすくキャッチーな曲を集めた「浅瀬」、ちょっとマニアックな趣向を凝らした「中層」、テーマも重くディープでアングラな表現である「深海」と、自分たちの作品を階層的に分類してディスクごとに収録したベストになっています。その世界をより深く理解してもらおうという趣向でこのライブは構成されていたと思います。

まず「chap.深海」からスタートします。この時点で深海、中層、浅瀬と盛り上がっていく構成なのかなと予想しました。そしてこの深海パートが良かった。いきなり盛り上がるのではなく、じわーっと静かに音楽が会場に染み渡るような空気感。普段のライブなら構成上中盤に来るこのディープな世界から始まるというのは今回のツアーの大きなポイントだったと思います。

次は中層と思ったらいきなり「新宝島」のイントロが流れてきます。あれ?と思ったらすぐに消えて、やっぱり「中層」に。この肩透かし感。個人的には中層が一番好きですね。キャッチーなメロもあり、音楽的には結構深くマニアックなものもあり。サカナクションがやりたい音楽の形が最もビビッドに出るのがこの「中層」だと思います。

セット的には『GO TO THE FUTURE』あたりの結構古い曲多が多かったです。打ち込みや同期を使ってはいても、このあたりの曲は基本バンドの音が中心です。なのでシンプルなバンドアンサンブルが楽しめるセットでした。ペニーレーンとかでやっていたデビュー初期のライブを思い出しながら見てました。

メンバー紹介の時に、話が脱線してたのが面白かった。ルーキーのサビは元々札幌にいたときに、前のバンドのダッチマンをやっていたころにあった曲だとか、新宝島のサビもその頃からあった、みたいな話をしてました。

そしてホールツアーの詳細も発表されました。新作が出ていれば新作のツアーになるはずですが、現状のペースだと確約はできないと一郎君は言います。曲は出来てるけど、詞が書けないのだと。草刈姐さんは「いいメロディー出来てるんだよ」と言ってました。一郎君は「ここまで来たらメンバー全員満足できないものは出さない。」と言い切りました。時間が経った分、ハードルも高くなっているのでしょうが、乗り越えてほしいと思います。

その中で、世間がサカナクションに求めることと、彼らがやりたいことのズレというのは確実にあるのでしょう。例えば、今回みたいにいきなり「深海」モードで始めるというのは、フェスではできないと言ってました。やればいいじゃん、っていうのはわかるけど、実際に自分の立場になったら怖くてできないと。(ただ、サカナクションフジロックのステージでは今回の構成に近いセットでした)

山口一郎は松任谷由実とラジオで話をしたそうです。その中で自分のやりたいことがポップスとして成立しない気がする、と相談したと。でも松任谷由実は「あなたはもうポップスを鳴らしてるわよ。」と言ったそうです。「あなたの音楽を支持している人がこれだけいるんだから、あなたがやりたいことをやれば、それはもうポップスなのよ。」と。ユーミンだからこそ言える含蓄ある言葉ですが、これで一郎君は肩の荷が少し下りた気がしたと言ってました。

ポップスとアンダーグラウンド、J-POPとクラブミュージック、いろいろなものの狭間で、それをつなごうとするのがサカナクションの歴史でした。その中で自分たちのアイデンティティをもう一度見直そうという時期に来ているのかもしれません。とてもタフな状況にあることは想像できます。我々ファンは信じて待つしかありません。大丈夫、彼らなら。

(chap.深海)
1.朝の歌
2.mellow
3.フクロウ
4.enough
5.ネプトゥーヌス
(chap.中層)
6.明日から
7.ネイティブダンサー
8.三日月サンセット
9.ワード
10.白波トップウォーター
(chap.浅瀬)
11.アルクアラウンド
12.ライトダンス
13.表参道26時
14.ルーキー
15.アイデンティティ
16.ミュージック
17.新宝島
18.陽炎
<アンコール>
19.夜の東側
20.開花
21.夜の踊り子

ひとりじゃないの。

奥田民生 MTRY TOUR 2018
■2018/06/02@わくわくホリデーホール

奥田民生という人は、そのリラックスした雰囲気と音楽に対する自由なアプローチで、多くのファンやアーティストからリスペクトされている。

その自由さは、2015年に自身のレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」を設立して以降、さらに顕著になっている気がする。

以前行ったツアー「ひとりカンタビレ」と、その後のアルバム『OTRL』をさらに進化させたようなプロジェクト「カンタンカンタビレ」などはそのいい例だろう。その手軽さとスピード感は、メジャーのレコード会社ではなかなか難しいものかもしれない。

宅録の過程を見せてしまう(そして配信してしまう)というのは、もちろん、全ての楽器を自分で演奏できてしまうマルチプレイヤーぶりがあってのことだ。

しかし、忘れないでほしい。

13年前、つまり、今のライブバンド「MTR&Y」のスタイルになるまで、奥田民生のライブはもう一人のギタリスト、長田進氏がいた。MTR&Yとなり、ライブでのギターを民生ひとりでやるとなった時には、メディアやファンから「大丈夫か?」という声が聞かれたほどだ。

ぶっちゃけ言えばその頃まで、ボーカリスト、ソングライター、プロデューサーとしての奥田民生よりも、ギタリスト奥田民生は低く見られていたと思う。しかし、そんな声はすぐになくなった。

当時、「過小評価されている日本のギタリスト」ランキングがあったら、奥田民生はかなり上位に来ていたと思う。

何が言いたいかというと、奥田民生は非常に優れたギタリストであり、またどの楽器も演奏できるマルチプレイヤーである民生がギタリストに徹してライブを行う場がMTR&Yであり、今回のツアーはそういうプレイを十分に満喫できる場所であったということです。

始まった!と思ったら2曲目でいきなり「イージュー☆ライダー」をかまし、「今日はどうもありがとうー!」と大団円を演出する民生。2曲で終わりって、どこの安全地帯*1だよ!とツッコんでいると「ここからはアンコールになります。ちょっと普通のアンコールよりも長いと思うんですけど。」と民生。ここからのアンコール(笑)が、非常によかったです。

特に「海猫」「白から黒」「鈴の雨」あたり、中盤のミドルなナンバーがとても聞き応えがあった。民生のスローなギターソロは実に味があっていいのです。

弾き語りの「ひとり股旅」、全部演奏する「カンタビレ」、1/5であることを楽しむユニコーン。そしてこのMTR&Yは、民生の活動形態の中で最も、ボーカル&ギターに徹してロックを追求するスタイルだと思う。どの民生も僕は好きだけど、MTR&Yでレスポールを弾いている民生が最高にカッコいいと思う。そう思わせてくれるようなライブでした。

ちなみに民生は故レス・ポール氏にサインをもらったことがあるのだけど、"Tamio"の"a"が抜けて"Tmio(トゥミオ)"になったそうです。オクダトゥミオ、最高でした。お疲れ様でした。

■SET LIST
1.MTRY
2.イージュー☆ライダー
3.フリー
4.エンジン
5.KYAISUIYOKUMASTER
6.歩くサボテン
7.ミュージアム
8.サケとブルース
9.ゼンブレンタルジャーニー
10.海猫
11.白から黒
12.鈴の雨
13.イナビカリ
14.ルート2
15.俺のギター
16.いどみたいぜ
17.最強のこれから
18.ヘイ上位
<アンコール1>
19.愛する人
20.解体ショー

サボテンミュージアム

サボテンミュージアム


【DIYでアナログレコーディング】奥田民生「カンタンカンタビレ」

*1:安全地帯が2曲しかやらなかった2015年のライジングサンロックフェスティバルでの惨劇のこと