無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

人間臭い機械音。

010

010

 デジタル・インダストリアルなサウンドとヘビーなギターサウンドのミクスチャーというのは、別に今の時代珍しくも何ともない。けども、その多くはなにか鬱屈した感情の爆発や、真っ直ぐなメッセージをブチ込み届けるためのエンジンとしてそのサウンドを用いているように思う。とすると、やはりこのマッドというバンドはその中では特異な存在だ。彼らが表現しようとしているのはそのサウンドが全てであり、なにか具体的な感情やメッセージが込められているわけではない。この尋常でない密度で構築された音こそが彼らの全人格なのだ。清々しい。潔い。
 コワモテのバンドと思っている人もいるかもしれないが、フィギュア付きのシングルを出したり、ジャケットのロボットを実際に作ってしまったり、無邪気なユーモアを持つ、非常にバランス感覚に優れたバンドだと思う。本作が早くも10枚目となるベテランがこんなに楽しく、瑞々しいアルバムを作ってしまうことは勇気を与えてくれる。そして、どんなに音の強度が増そうとも、揺るぎ無く美しいメロディーがバッチリ立っている。ビジュアル的にはどんどんサイバーになって行くが、何とも人間くささを感じるアルバムだ。

真っ直ぐ泣き笑い。

BLEED AMERICAN

BLEED AMERICAN

 ボーカルのジム・アトキンスは昨年のハスキング・ビーの傑作『FOUR COLOR PROBLEM』にも参加していたし、イースタンユースと「極東最前線」で共演したりと、日本のパンク/メロコアシーンとも関わりのあるバンド。というわけで、大体どんな音か想像はつくと思うけれども、その通り、グッと心臓を掴み取るような胸キュンメロディーと直情的なビートで繊細な感情をロックンロールとして鳴らすバンドだ。
 毎日僕達がつまずいている問題なんてのは、仕事が上手く行かないとか、周りの人間とウマが合わないとか、好きな人とケンカしたとか、新品のCDケースが割れてたとか、他人から見るとどうでもいいようなことばかりだったりする。そのどうでもいいようなことと正面から向き合って、頼んでもいないのに「いやでもさあ、俺はこう思うんだよね」なんていきなり語り出しちゃうような、それでいて全然うざったくなくて、気がついたらこっちが向こうの悩み相談してたみたいな、そんな真っ直ぐさと情けなさを持つバンド。愛すべきアルバムだ。個人的にも、こういう単純に「いい曲」ってのに本当に弱い。"SWEETNESS"、 "THE MIDDLE"とか、メロだけでうるっと来てしまう。ASHの新作と並んで、今年の青臭いロックンロールアルバム最高峰と言ってしまいたい。
 本作のレコーディングはレコード契約もなく、自腹でスタジオ借りるところからのスタートだったようだが、本国でも日本でも状況は一変すること間違いないだろう。十両から復帰した途端平幕優勝しちゃったみたいな爽快感溢れるアルバム。天晴れ。