無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

人間臭い機械音。

010

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 デジタル・インダストリアルなサウンドとヘビーなギターサウンドのミクスチャーというのは、別に今の時代珍しくも何ともない。けども、その多くはなにか鬱屈した感情の爆発や、真っ直ぐなメッセージをブチ込み届けるためのエンジンとしてそのサウンドを用いているように思う。とすると、やはりこのマッドというバンドはその中では特異な存在だ。彼らが表現しようとしているのはそのサウンドが全てであり、なにか具体的な感情やメッセージが込められているわけではない。この尋常でない密度で構築された音こそが彼らの全人格なのだ。清々しい。潔い。
 コワモテのバンドと思っている人もいるかもしれないが、フィギュア付きのシングルを出したり、ジャケットのロボットを実際に作ってしまったり、無邪気なユーモアを持つ、非常にバランス感覚に優れたバンドだと思う。本作が早くも10枚目となるベテランがこんなに楽しく、瑞々しいアルバムを作ってしまうことは勇気を与えてくれる。そして、どんなに音の強度が増そうとも、揺るぎ無く美しいメロディーがバッチリ立っている。ビジュアル的にはどんどんサイバーになって行くが、何とも人間くささを感じるアルバムだ。