無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ヒカルの碁

ヒカルの碁 (1) (ジャンプ・コミックス)

ヒカルの碁 (1) (ジャンプ・コミックス)

 知り合いに薦められるままにちょっと買って読んでみたら、面白い。少年マンガで碁なんてものが題材になること自体が珍しいとは思うが、これが少年ジャンプという超メジャー雑誌で連載されているということがまた驚きだ。はっきり言って僕は碁を知らない。ルール、というか、それこそ作品中で言うところの「碁とオセロの区別もつかない」レベルの人間である。にもかかわらずここまで読めて、どっぷりはまれるのは原作の骨格と作画の力なのだろう。
 ジャンプといえば出てくる、いわゆる「努力、友情、勝利」の原則にこの作品もきちんと乗ってはいる。団体戦のエピソードなどでの友情物語はいかにもだし、基本的にヒカルという主人公の成長物語として描かれている。最初は藤原佐為の圧倒的な力で一気にプロにでもなっちまうのかと思いきや、そうではなく、主人公が自分の力でライバルを追いかけるという文化的スポ根もの(?)となっている。バスケと碁という違いはあれど、「スラムダンク」に近い構造かもしれない。ただ、圧倒的に違うのは碁というのはあくまで個人戦であり、団体競技ではない。少なくとも、ヒカルがプロを目指す時点で「みんなの力で」的な考えからこの作品は切り離されている。
 ただ、ヒカルの側には常に佐為がいるために純粋に孤独な戦いというのではない、というところで上手にバランスを取っている。上手いやり方だとは思うが、その佐為の存在感が現時点(単行本6巻)まででやや希薄になっているのが気がかりだ。単なるヒカルの保護者、物語の狂言回しのような立場になりつつある。本来はそうであってはいけないのじゃないだろうか。彼の圧倒的な碁の実力がこの先、どういう形で発揮されていくのかが楽しみである。ただ、ヒカルではなく彼が打つということはヒカルの成長には明らかに妨げになるのであり、この先どういう形で落とし前をつけるのか非常に楽しみだ。一応ヒロインでありながら今のところ一度もヒカルとイイ感じになっていないあかりの存在も気にはなるが。
 麻雀を知らなくても「哲也」は面白いし、将棋を知らなくとも「月下の騎士」は読める。そういう意味で碁が題材になったとしても別におかしくはないが、実際に連載で碁をテーマにするというのはかなりの冒険だったはずだ。それをあの少年ジャンプがやったというところに僕は驚きと、尊敬の念すら覚える。ここ数年ジャンプは読んでいないので今どうなっているのかわからないが、もしかしたら凄く面白いことになっているのじゃないのだろうか。という期待すら抱かせる作品である。