無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

深作欣二が泣いている。

バトル・ロワイアル II 鎮魂歌(レクイエム) 通常版 [DVD]

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 これは深作欣二氏の遺作でもなんでもなく、深作健太という新人監督のデビュー作である。そう思わなければちょっとまじめに見ていられない。確かに、健太氏や深作組スタッフにしてみれば思い半ばで果てた監督のためにもなんとしてもこの作品を完成させなければ、という思いがあっただろう。「鎮魂歌」というサブタイトルには監督への手向けの意味が込められていることは想像に難くない。しかし、それを作品への言い訳にすることは絶対に出来ないし、許されない。正直、深作欣二氏がこの映画を見たらどう思うだろう?そんなことを考えながら見ていたら途中で劇場を出て行きたくなってしまった。つらい。
 前作のサバイバルゲームで生き残った七原秋也は、反BR法のテロ組織のリーダーとなり、全ての大人たちに宣戦布告する。彼らの手による新宿副都心爆破のシーンから映画は始まる。そのビル郡が崩れ落ちる映像も含め、この作品には明らかに「9.11」以降の世界情勢に対する何がしかの意図がありそうな雰囲気(この微妙な言い回し、わかってほしい)が垣間見られる。のだが、それがことごとく中途半端だし、物語とも全くリンクしていないので監督が何を言いたいのか理解不能。脚本も悪いのだろうが、結局この映画のテーマはなんだったのか見終わって考えてもさっぱりわからない。そして七原秋也がテロ組織のリーダーといっても、あまりにもその思想が貧弱すぎて、何でこの人物に組織の人間は従っているのだろうと不思議に思えてくる。藤原竜也は七原にカリスマ性を持たそうと演技しているように見えるけど、単に大人になれないで駄々をこねている引きこもりみたいに見える。「全ての大人に宣戦布告」と言うが、七原には自分が大人になったときのビジョンが全く欠落している。これではダメだろう。
 いきなり総理大臣が出てきて「あの国(=アメリカ)を怒らせたから」云々というくだりも、なんか社会的、政治的な匂いを漂わせたいだけで中身のないキーワードの羅列に終始している。アメリカが大人で日本が子供?それはそうかもしれないが、だからなんなんだ。この映画の中の「大人VS子供」という図式にそれがどう関わるのか見ている側には全然伝わらない。これなら単純に中学生とテロ組織の殺し合いだけを描いた方がよっぽど見られたような気がする。
 深作欣二氏の映画は確かに暴力的な描写が多かったが、それは暴力の中に人間のエゴや醜さ、恐ろしさを内包させ、死と生の狭間でそれが最も顕著に現れることを強調して描こうとしていたからだと思う。少なくとも前作で描かれる「死」や殺し合いにはそれがあったと思う。この映画には何もない。そして無理やりくっつけたような希望的ラストも、じゃあそれまでの戦いは何みたいな…もういいや。ビートたけし千葉真一深作欣二氏への追悼の思いで出演したのだろうが…。前作よりレベルが高い部分があるとすれば、使った爆薬と弾薬、血糊の量だけでしょう。ここまでひどい映画、『パールハーバー』以来です。