無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

明日なき迷走。

Libertines (Bonus Dvd)

Libertines (Bonus Dvd)

 前作よりもさらにヨレヨレの演奏。ほとんどデモテープと言っていい。しかしこのアルバムはあまりにも美しく完成されたロックンロールアルバムだと思う。ガードマンをつけなければまともにレコーディングができなかったと言う話もあるが、そうしたボロボロの風景が如実に感じられる非常に無防備なアルバムだ。昨年から続くカールとピーターの骨肉の愛憎劇を目の当たりにしている人ならいたたまれなくなるような歌詞も多い。もしかして一連の事件とは関係のない内容のものもあるのかもしれないが、正直言ってそれはもうどちらでもいい。受け取る側がそう受け取ってしまえばそれで終わりだ。そう受け取れてしまう言葉がこのアルバムには多すぎる。そういう意味でもこのアルバムはあまりにも無防備だと思う。ノーガードの打ち合い、どころかノーガードで打たれまくってるだけのサンドバッグ状態アルバム。
 「頼むから俺を誤解しないでくれ/歌の中ではお前を許してきた」「俺たちが抱いてきた夢はどうなった?永遠の約束はどうなった?」こんな言葉をカールとピーターは二人で歌うのだ。二人でだ。いや、そもそもお前ら自分たちの置かれた状況をわかってるのか?と言いたくなる。自分の心にぐっさり刺さるような、自分たちのすれ違いそのものみたいな歌を二人で(!)歌うのだ。この痛々しさ、涙腺破壊力はこいつらちょっと気が触れてるのじゃないかと思うくらいのヤバさである。傷つきながら、血みどろのままその場でのた打ち回り、目隠しのまま疾走するロックンロール。いつまでたっても交わらない、loveとhateのらせん構造。
 ロックンロールのマジックとは、簡単に言えば1+1=2ではなく、3にも4にも10にもなるところだ。しかし今のカールとピーターは1+1=2どころか2 乗して-1になる虚数のようなものだ。どこでどう間違ってしまったのか。しかし僕はそれでもこのアルバムは未来への希望であると思う。完成したこと自体が奇跡のようなアルバムだからだ。やり直すことはできなくても、新しく始めることはできる。そう信じたい。ロックンロールに選ばれたものにしか生み出せない生身のドキュメンタリーがここにはある。あまりにも過酷な運命に翻弄されながらそれでもロックにしがみつき、お互いを愛し、求め、それでも交わらない二人。この儚い光をもう少し見ていたい。もう一度強く光ることを信じて。