崇高な音楽の力。
- 出版社/メーカー: エイベックス・マーケティング・コミュニケーションズ
- 発売日: 2005/08/24
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1960年代、アパルトヘイトに対する反対運動が盛り上がってきた当時から、政治運動のリーダーとなるのはミュージシャンであったらしい。彼らは街頭でアジテーション演説をする替わりに曲を作り、歌い、民衆はシュプレヒを繰り返す替わりにその歌に呼応し歌い、踊ったのだ。黒人にとって優れた政治活動のリーダーはつまり、優れたミュージシャンであったということなのだ。そしてそうした活動の中で生まれた音楽の多くは口承文化であって、明確に譜面などの形で残されたものは少ない。アイヌの言語などと同じで、親が子供に聞かせ、その子供がまたその子供に聞かせ…という中で歌い継がれて行ったのだ。残ったものがすなわち最も彼らの生活に密接につながり、彼らの境遇を的確に表した曲であるということなのだろう。当時の弾圧がどのようなものだったか、様々なミュージシャンが歌とともに証言していく。殺された仲間を悼む曲を歌い、感極まり涙するかつての活動家の女性もいた。しかし、その曲の内容がどんなに悲惨であっても彼らの音楽は心を鼓舞するようなビートと生命力に溢れたメロディーを決して失わない。陳腐な物言いになってしまうが、本当に美しいのである。
後半に描かれるのは80年代、反政府運動家たちや民衆が「トイトイ」という激しい歌と踊りで白人の軍隊と対峙する場面だ。当時の軍人達の証言ではそれがいかに凄まじく、二度と体験したくないものだったかが語られるのだが、実際の映像を見てもフィクションの映画の一場面ではないのかというくらいの迫力なのだ。銃を構え、戦車でバリケードを作り催涙弾を投げ込む軍隊を前に何千何万という丸腰の民衆が声を揃え、足を踏みならし行進していくのである。まさに、歌こそが彼らにとって唯一の武器だったのであり、それによって彼らは革命を起こし、自由を手にしたのだ。その歌声のなんと力強く、心躍らされるものであることか。歌い踊る姿のなんと気高く美しいことか。
音楽が持つプリミティブな力というものに体の奥が震えるような畏怖を感じると同時に、本作が描く事実に感動を禁じえなかった。音楽というのは、ここまで力を持ち得るものなのだ。音楽によって少しでも心を動かされたことのある人全てに見てほしい。