無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

エレカシの歩みは進む。

風

 ドキュメンタリー『扉の向こう [DVD]』には、年を経て、いわゆるベテランと呼ばれる年齢になったロックミュージシャンがそれでもなお生きた言葉と音楽のリアルを生み出そうと悪戦苦闘する姿が映し出されていた。僕は何度も書いているが、今の宮本が達した境地は「生と死が等価である」というものである。来るべき死を明確に意識するからこそ生が強く輝く。前作の、そして本作もそうであっただろう、寿命を削るような創作作業の果てに宮本から生まれた音楽はこんなにもポジティブで、前に進む力を強くたたえたものだったのだ。
 1曲目「平成理想主義」から、ギリギリと軋むようなソリッドなロックが押し寄せてくる。アグレッシブではあるが、決して聞くものを萎縮させるような攻撃性はない。「きっと簡単なことさ/まだ歩みとまらないさ」そんな言葉で、自らが手にした確信を宮本は鳴らすのである。「夜と朝のあいだに...」のような決して現実逃避ではない、内に秘めた熱を持つようなセンチメンタリズムも白眉。僕は前作『』や本作に『生活』や『エレファント カシマシ 5』の頃の匂いを感じることがあるのだけれど、その当時と今が違うのは当たり前だけれども宮本もメンバーもミュージシャンとして、そして人間として成長したということだ。「何をどう鳴らすか」ということに悩むことはあっても、決してその先の道を見失っていない。デビュー15年を超えたバンドがこうして何度目かの「新しい季節」を迎えていることは驚くべきことだと思う。