ムービング・ファストボール・コメディ。
- 出版社/メーカー: 東宝
- 発売日: 2006/08/11
- メディア: DVD
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同時進行するエピソードの中にもドラマを通じて登場するキーアイテムがあって、それが田舎へ帰ろうとするベルボーイ(香取慎吾)の置き土産となった人形である。これが巡り巡って、というオチは過去に三谷氏も使ったことがあるらしいが、錯綜するドラマを一つの円環としてまとめる役割を果たしている。三谷氏の作品の中には「赤い洗面器の男」のように、オチをバラさずに引っ張ることで作品に観衆を引きつける手法が用いられることがあるが、今回の場合それは角野卓造演じる大学教授の「面白い踊り」になるだろう。こういう、ところどころに散りばめられる三谷氏の手癖が嫌味にならずに用いられていて思わずクスっとしてしまう。
個人的に印象に残った役は、篠原涼子演じるコールガールと、最後にオイシイところを持っていく売れない歌手のYOUだ。どちらも、作品の中でその表情や言動が変わっていき、最初に登場したときとは別人のように輝きだす。これだけキャラクターが多いと見る側も全員に感情移入するのは難しいのだけど、こういういい役は役者冥利にも尽きるってものでしょう。支配人役の伊東四朗も、相当笑わせてくれた。今時の「お笑い芸人」ではなく、「喜劇役者」という言葉が似合う快演。
ジェットコースターのようにテンポよく進んでいく映画のリズムは、ジャズを思わせる。三谷氏が本作の製作に関して往年の名作『グランド・ホテル』へのオマージュを込めているのはよく語られているところだが、それだけではなく、様々なミュージカルやコメディへの憧憬もあるのではないかと思う。こういう作り手の「スクリーン」への想いが詰まった映画はやはり映画館で見たい。そして、あとから何度もDVDで繰り返し新しい発見を楽しみたい。多少のアラやミスがあっても、気にせず許せてしまうだけの魅力がある映画だと思う。