無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

悪魔を憐れむ歌

Down in Albion

Down in Albion

 過去も現在も未来も希望も何もなく、ただすがることができるのは音楽しかないというロクデナシが、その衝動のみを拠り所にしてノイズをかき鳴らす。そのノイズが、同じような世界中のロクデナシの希望となる。ロックンロールという音楽が持つ魔法は、幾度となくそんな光景を生み出してきた。そしてリバティーンズというバンドも、そんな魔法を確かに持っていた。が、ファースト以降、今に至るまでに、ファンは何度絶望させられてきたことだろう。カールとピーターが会ったとか話をしたとか、そんなガセネタを何度つかまされ、その度に落胆させられてきただろう。それでもリバティーンズの復活というのは(それが本当の復活なら)ファンならずとも祝福したい出来事なのだけど、今の状態ではそれはストーン・ローゼズの復活くらいありえなく、そして何を今更、という意味のないことになってしまうだろう。
 このピーター・ドハーティのバンド、ベイビー・シャンブルズのデビューアルバムは、そんな状態に光をもたらす吉報であったはずだ。もちろん、そのように受け取っているファンも多いと思う。しかし、ここに収められた瓦礫のような音楽は、僕にとってはひとつの物語の終わりを決定づけるものでしかなかった。クスリでボロボロになろうとも、ピーターという人の才能は悲しいほどにこのアルバムから見えてきてしまう。全編ではないが、そういう瞬間が間違いなくある。でも、今の彼はその才能を磨き、伸ばし、自分が生み出した音楽をさらに輝かせるための努力を放棄してしまっている。ろれつの回らないボーカル。意味不明な歌詞。それがボロ雑巾のようなバンドの音で、あまりにも美しいメロディーに乗ったとき、僕はロックンロールという音楽の残酷さを前に立ちすくんでしまう。なぜ神はこの男にこのような才能を与えてしまったのか。
 聞くほどに生々しく、激しく哀しい。ロックンロールしかすがりつくものがなく、しかしそのロックンロールすら裏切ろうとしている男の末路。