無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

一番原作通りだったのはワタリ=藤村俊二かも

DEATH NOTE 〜the Last name
■監督:金子修介 ■出演:藤原竜也松山ケンイチ戸田恵梨香ほか

DEATH NOTE デスノート / DEATH NOTE デスノート the Last name complete set [DVD]

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 前後編、2本の作品を見終わって、これはこれでぜんぜんアリだと思ったし、原作には無い要素が外れない程度にきちんと盛り込まれていて、作り手の高い意識が感じられて良かったと思う。単に、人気のある原作に乗っかってやっつけ仕事で作りましたというものではなかった。その、原作に無い要素というのは何かと言うと、簡単に言えば「デスノートで犯罪者を裁くのは是か非か」ということである。原作でも、最後に月が死ぬことからすれば、一定の方向は示していたかもしれないが、原作者の言葉として、はっきりとしたステートメントは作中では書かれていない。最終回での松田・井出のやりとりも結論はぼかしているだけだ。原作において、大場つぐみはキラとLの心理戦とデスノートをめぐるサスペンスに比重を置き、道徳的な理念についてはほとんど置き去りだった。それはそれで、意図的なやり方だったのだと思う。しかし、金子監督はそれでは映画としてのストーリーが成り立たないことと、自身の考えも含めて、明確な一つの答えをこの映画に与えようとしている。キラは悪であり、例え凶悪な犯罪者であろうとも死という裁きを人間が下すことは単なる殺人である、ということだ。月の場合は、FBI捜査官や南空ナオミ、果ては恋人と、犯罪者でないものまで殺しているので言うまでもなくなのだが、最終的にこのテーマをきちんと、キャラクターを通して明示している点は評価できると思う。
 藤原竜也は個人的にやはり演技が好きではないのと、字が汚い(優等生に見えない)ことも含めてちょっとダメだった。L役の松山ケンイチは風貌含めて素晴らしい。口調を無理やり外し気味にしているのはややわざとらしかったが。ミサ役の戸田恵梨香は、もっとイタいかと思っていたが、あまり飛び抜けた感もなく、好演だったと思う。第2のキラとして拷問を受けるシーンは、その筋の人にはたまらないかもというくらいフェティシズムに溢れていて、製作者側の強い意図を(ここにも)感じました。そうなるとやはり、CGの死神が違和感を覚えることになってしまう。CGは、結局金と時間をかけたものには適わない。ハリウッドには適わない。仕方ないんだけど。
 映画版独自のストーリー展開は、原作とは異なりLとキラの戦いにおいてLに勝たせるという結末にしなくてはならなかったので、ヨツバ編や第2部のラストを含め、再構築したような形になっている。ヨツバの代わりに高田清美を持ってきたのは、原作のキャラクターを使い切る意味でもうまいやり方だったかも。そして、最後のどんでん返しの部分についても、デスノートの使い方の裏をかいた、いい方法だったと思う。細かい矛盾は置いといて、Lが命を賭してキラを追い詰める、キラに勝つ、という決意がはっきり出てるし、総一郎がその作戦を承諾するというのも説得力が生まれる。そして、前述した本編の結論を、最後に総一郎に言わせるというのは、この映画の父性の象徴とも言えるもので、加賀丈史をキャスティングしたのは良かった。Lの最後のシーンでのやり取りも、Lと総一郎の擬似親子関係のようなものが透けて見えて、原作には無いいいシーンになったと思う。
 デスノートのルールに関しての説明がやや希薄で、原作未体験の人間には不親切な部分はあるかもしれないが、映画として単独で十分楽しめる作品になっていると思う。正直、もっとグダグダなものになると思っていたので嬉しい誤算。