無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

正面突破。

green chord(初回生産限定盤)

green chord(初回生産限定盤)

 今思えば、前作『and world』は彼らにとって過渡期的なアルバムであったのだろう。『創』『Loop』『equal』の3部作で壮大なドラマの円環を描いた彼らにとって、その先の風景をどう表現するかというのはとてつもなく大きなハードルであったと思う。前3部作というのは最終的に、地球や生命の起源、宇宙を含めた大きな輪廻のストーリー(とても簡単に言えば、の話だが)だったと思うのだが、そのテーマが深くなるにつれ、歌詞の世界はより難解に哲学的になり、我々が暮らす現実の世界とは感触として乖離してしまうような危険も孕んでいた。前作は、そうしたテーマをいかにしてこちら側の世界に密接に絡めて再構築するか、という試行錯誤であったように今となっては思う。
 そしてこの5作目。ここに来て、その試行錯誤は大きく実を結び始めたと言っていいのではないか。全体のサウンドとしてはジャズやブルースなどを基調とした横ノリのミドルチューンが多く、パンキッシュで激しい曲に魅力を感じていた人にとってはややおとなしめの印象を受けるかもしれない。しかし、高度なアンサンブルは決して緊張感を失うことはないし、何よりも即効性のあるメロディーが復活しているのが魅力。前3部作の曲名を歌詞の中に忍ばせるなどの遊び心もあり、リラックスしたいい状況の中でアルバムが製作されたのだろうと思う。バンドの状態も恐らく非常に良いのではないだろうか。
 思えば、彼らはバンド内の関係にしても、音楽的なハードルにしても、回り道をせずに常に正面から向き合ってそれを乗り越えてきたように思う。クールな佇まいとは裏腹に、不器用で体育会系の男気を持つバンドだと思う(個人的に、前作の感想でも書いたように、その世界観や音楽の構築については非常に理系的であるとは思うが)。そしてこのようにその成果をアルバムとして結実できたと言うのは、素晴らしいことだと思う。3ピースバンドとしてのACIDMANを考えた時に、これまでで最も音楽的に豊潤でその高いポテンシャルがフルに発揮されたアルバムじゃないだろうか。終曲の壮大なメッセージに説得力を持たせるだけの密度が全体に貫かれている。
 彼らと同じようなサウンドを鳴らすバンドはいても、音楽の背景にあるコンセプトや思想において彼らと同じレベルでロックとして昇華できているバンドはほとんど思いつかない。という意味でも特異なバンドだと改めて思う。