無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

第61回全日本合唱コンクール全国大会(4)〜一般部門B

■2008/11/23@岡山シンフォニーホール
 鼻血が出そうだった一般Bです。ここ数年見るたびに思いますがこのレベルの高さはちょっとオカシイと思います。
■No.3 合唱団ある(広島県・混声65名)
 千原英喜氏の「ラプソディー・イン・チカマツ」というと、どうしても2003年津大会での大久保混声合唱団の演奏が思い出されます。全国大会直前に辻正行先生がお亡くなりになり、息子の辻志朗先生が替わりに振ったのですが、その鬼気迫る演奏はまさに団員の皆さんの辻正行先生への想いが爆発したかのような凄まじいものでした。その日の深夜、大久保混声の方々数名と飲んだのですが、その際に辻先生の思い出話やエピソードなどを聞いてまた涙涙・・・。という思い出があるので、なかなかアレを超える演奏には出会えるはずがない、と思ってしまいます(もしかして大久保混声自身にも無理なのでは)。しかしあるさんはさすがに実力派です。音楽的に淀みがなく、ツボを押さえつつも、派手なパフォーマンスもきっちり決めて会場の空気を一気にコンクールからお祭りに変えてしまいました。ただ、そのパフォーマンスは見ていて楽しいし、例えば演奏会などでやってくれれば拍手喝采、スタンディングオベーションなのですけれども、パフォーマンスに目が行き過ぎて音楽への興味を削いでしまうようだと、音楽コンクールとしてはどうなのかな、とも思います。この辺は人によって意見が変わると思いますが。ただ、コンクールでここまでやってもいいんだなあ(よくなったんだなあ)、と示す意味ではひとつの公知例になるような演奏だったのではと思います。個人的にはコンクールは単なる技術を競う場ではなく、審査員も含め聴衆を楽しませるものでもある(あってほしい)と思っているので、実力のある合唱団がこういうステージをきちんとやりきってくれたことは今後のコンクールに少なからず影響を与えるのでは、と期待してます。
■No.4 MODOKI(佐賀県・混声42名)
 MODOKIさんとは長年仲良くさせてもらっていて、その音楽も、合唱に対する姿勢も、飲みに対する姿勢も尊敬しているのですが、今回の演奏は本当にやられたーと思いました。MODOKIの音楽の真髄は聞き手の首に刃物を突きつけるような厳しい緊張感だと思っているのですが、それに加えて課題曲では真逆の温かさ、包容力のようなものも感じました。G2「Salve Regina」を演奏したところは多いですが、個人的に最も音楽的に腑に落ちた、素晴らしい演奏だったと思います。中間部終わって冒頭のフレーズのリフレインのなんと美しいこと。あまりの感動に泣いてしまいました。自由曲は東工大コール・クライネスも演奏したペンデレツキの「Agnus Dei」。美しさの中に溢れんばかりの悲しみや哀れみを持つこの曲は、全編冷たい緊張感に支配されていて、MODOKIにズッぱまりではないかと思っていたのですが、まさにその通りでした。ベースの通奏低音もさすがの厚さ。クライマックスのクラスターの激しさもすごい迫力でした(120人よりもすごかったと思う)。話を聞くとその後のテナーがマズかった、とのことですが正直聞いていても気づきませんでした。音楽の緊張感と雰囲気を損なってはいなかった、と思います(言われてからあとで録音聞いてみて気づいたくらい)。とにかく、最後の一音がホールから消えるまで背中を椅子につけることができないほどステージに引き込まれました。これぞMODOKIの音楽、山本さんの音楽だと心底思いました。今回会場で即売CD買ったのはMODOKIさんだけです(1枚2000円は高いので・・・)。金賞2位シード、おめでとうございます。札幌でお待ちしています。
■No.9 岡崎混声合唱団(愛知県・混声65名)
 自由曲は先の合唱団あると同じく「ラプソディー・イン・チカマツ」の「貳の段」。ちなみに課題曲も同じ。私も経験あるのですが、こういうの、イヤですよねえ。コンクールなんだから比較されるのは当たり前なんですが、同じ曲だとわかりやすく自分たちのダメなトコ(他の上手いトコ)が如実に出てしまうので(上手い合唱団なら気にならないのでしょうか)。課題曲は正直どちらも甲乙つけがたい。破綻のない、ある意味無難な演奏。自由曲は、岡崎混声さんはあるさんとは違って最低限の演出でじっくり曲の世界を掘り下げるというものでした。冷静に、曲の魅力を引き出そうという演奏だったと思います。私は「チカマツ」を歌ったことはないですが、何度か生で聞いて楽譜を見る限り、楽譜に書いてあることをきちんと外連味たっぷりに表現できればそれだけで十分なエンターテインメントになる曲だと思うのです。たぶん。岡崎混声さんの演奏はそれを堅実に実践していたと思います。結果として岡崎混声さんが上だったのは、純粋に音楽を届けていたか、音楽以外の部分でも頑張っていたか、コンクール的に評価した結果だったかもしれないと思いますが、レベルの高い争いであることは変わりないですね。やっぱり一般Bは濃いです。濃すぎです。
■No.12 Chorsal 《コールサル》(愛媛県・混声33名)
 初出場、おめでとうございます。指揮者様とは数年来の知り合いで、この合唱団のこともブログを通じて知っていたので本当によかったなと思います。人間離れした(失礼)レベルの一般Bの中では結果はやむなしかもと思いますが、さわやかで好感の持てる演奏でした。メンバーは皆さん若いと聞いてますけど、その若さを出し切った、清々しい演奏だったと思います。きちんと論理的に音楽を構築しようとしてるんだろうと思いました。すごく共感します。えらそうなことを言う資格などないのですが、過去に何度か全国に出た経験のある身からすると、合唱団にとって今回の全国初ステージはこの先ものすごく大きな意味を持つものになると思います。若い合唱団がこういう経験をすることでこれからどれだけ進化する可能性があるのか、今後の活躍に期待したいです。
■No.13 創価学会しなの合唱団(東京都・男声73名)
 非常によく統率された男声合唱という感じで、男というより「漢」、みたいな。「強敵」と書いて「とも」と呼ぶみたいな世界。ただ、課題曲M4はもう少しやわらかい表現の方が合っている感じがしました。自由曲「日本が見えない」は、フィリピンで戦死した竹内浩三氏の詩に新実徳英氏が曲をつけたもの。この曲、2003年の中学高校全国大会(福岡)で早大学院グリークラブの演奏を聞いています。あの時は「なんて曲だ」と驚くと同時に、高校生に「日本が見えない」と言われても、30過ぎたオッサンだって見えてないよ!ていうか自分の人生だって見えてないよ!と逆ギレしたくなったものですがさすがに70人の漢達に「日本が見えない!」と吼えられると「すいません」と言うしかなかったです。なにコラとはある意味対極にある男声合唱と思うのですが、これはこれでひとつの文化ですよね。有無を言わせぬ迫力がありました。指揮者の方もすごく上手な棒だなと思って見ていたのですけど、最初のステージへの礼のときからなんというかすごく個性的な方だったので、そういう意味でも強く印象に残っています。
■No.16 なにわコラリアーズ(大阪府・男声65名)
 昨年でコンクール出場はいったんおしまい、という話でしたが、シードを獲得したため今年も出ることになったそうです。昨年の演奏は本当に有終の美にふさわしい素晴らしいものだったので、今年のなにコラはアンコールだと思って聞いてました。実際はわかりませんが、ご本人たちも結果云々ではなくて楽しみたいという気持ちで演奏してたんじゃないかなあという気がします。課題曲のM2はさすがの説得力。自由曲はヤン・サンドストレムの「The Singing Apes of Khao Yai(カオヤイの歌う猿たち)」という曲。初めて聞きました。細かい音符で猿の鳴き声(と思われる)を響かせる。音響的に面白い曲。ステージいっぱいに広がってその音響効果を最大限発揮していました。よく響く会場だったこともあって抜群のサウンドでした。でも歌い手は皆猿の耳を頭につけての演奏(笑)。こういうところがなにコラらしいです。10年連続金賞。すごいことです。コンクールには出なくなったとしてもその素晴らしい演奏はいろんなところで聞けることでしょう。来年の演奏会も行きたいなあ・・・。
■No.17 ヴォーカルアンサンブル《EST》(三重県・混声42名)
 全国どころか金賞の常連、いまや世界のコンクールでも活躍する《EST》。今回もさすがです。声はいい、表現力もある、音楽の組立てもバッチリ。自由曲はウィテカー(今年はウィテカー多かったですね)の「hope, faith, life, love…」。僕が持っているCDより上手かったです(笑)。もうひとつはグイド・ロペス-ガヴィランという人の曲。昨年もESTはこの作曲家の「うそつき」という曲を演奏してましたね(この曲大好きで楽譜買ったのでした。いつかやってみたい)。キューバのリズムを用いた曲だそうで、ノリのいい楽しい曲でした。しかもそれをノリノリの振りつきで完璧に演奏してみせる。これはもう、参りましたと言うしかないです。2日間のコンクールをひとつのコンサート、フェスと考えたらここが最後というのも出来すぎなくらいハマってましたね。飛び抜けてここがすごい!という部分があると言うよりはどこをとってもレベルの高い、トータルの総合力で全体1位という印象でした。高い技術を持ちながらもそれをひけらかすわけではなく、音楽できちんと唸らせてしかも見ていて楽しい。合唱とはこうでありたい、と思います。
 一般Bはとにかくおなかいっぱいでした。これだけ高いレベルの合唱を一度に聞ける機会はやはり全国大会ならではです。特に北海道(札幌)ではBグループ相当の人数の合唱団自体が少なく、しかもいい演奏となるとなかなか難しいので。その後はMODOKIの打ち上げにお邪魔させていただき、北海道代表のTHE GOUGEの打ち上げにも顔を出し(おつかれさまでした)、Bグループの合唱団が一堂に会した「史上かつてない2次会」にもお邪魔しました(合唱団あるの皆様おつかれさまでした&ありがとうございました)。北海道大会の審査員だった雨森先生からお褒めと激励の言葉をいただいたのがすごく嬉しかったです。ありがとうございます。その後3次会、4次会?まで行って、最後はホテルの部屋で数名でヘロヘロトーク。疲れました・・・。そして11月25日の記述(id:magro:20081125)に繋がるわけです。お会いした皆様に感謝です。楽しかったです。でも、全国は聞くのも楽しいけど、やっぱり出てナンボだなあと思いました。来年こそは。がんばります。