無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

「サイレントマジョリティー」をめぐるアイドルたちの現在地についての一考察

 今年聞いたアイドルソングの中で最も衝撃的だったものの一つは間違いなく欅坂46のデビュー曲「サイレントマジョリティー」だ。大人たちに振り回され、群れて笑顔を振りまくことに対する疑問と葛藤を歌ったこの曲は、それこそAKBに代表されるアイドルグループに対する強烈なアンチテーゼだった。いずれにせよ秋元康によるマッチポンプと言ってしまえばそれまでだが、楽曲のクオリティーとともに、新たなアイドルのデビューとしては有り余るインパクトがあったと思う。


欅坂46 サイレントマジョリティ

 7月18日に放送された「FNSうたの夏まつり」の中で、AKBグループの各チームの中からエース級のメンバーを選抜して作られたスーパーユニットのパフォーマンスという企画があった。彼女たちが歌う曲はデータ通信を利用し、視聴者の投票で決められるというものだった。AKBの「恋するフォーチュンクッキー」「365日の紙飛行機」、乃木坂の「君の名は希望」を抑えて僅差で1位になったのは「サイレントマジョリティー」だった。各グループのファン以外も多数投票したであろう中でこの結果となったのは正直驚きであると同時に、「サイレントマジョリティー」という楽曲の力が一般に浸透していることの証左であるとも思った。「サイレントマジョリティー」を歌うと決まった時の彼女らは、笑顔の裏で様々な思いを抱いていたのではないかと思う。特に、乃木坂46のメンバーには忸怩たる思いがあったのではないかと予想する。

 前述した通り、「サイレントマジョリティー」はアイドルという虚構の世界で大人の言うなりに演じることの不毛さや疑問をテーマにしている。つまり、AKB48に象徴されるアイドルグループそのものに揺さぶりをかける曲である。それはアイドルの恋愛禁止に一石を投じた乃木坂46の「制服のマネキン」に通じる部分があるものとも言える。欅坂46のセカンドシングル「世界には愛しかない」も「サイレントマジョリティー」と同様のテーマを持つ曲だった。そして、楽曲としてもポエトリーリーディングをフィーチャーした非常に「攻めた」曲だったと思う。対して乃木坂の新曲「裸足でSummer」は駄作とは言わないものの定番の夏ソング。齋藤飛鳥の新センター抜擢というトピックはあっても、あくまでファン向けの話題でしかない。悔しかっただろう。乃木坂にしてみれば「サイレントマジョリティー」にしろ「世界には愛しかない」にしろ「私たちが歌うべき曲なのに!」という思いがあったかもしれない。


世界には愛しかない - Keyakizaka46.


裸足でSummer.

 「FNSうたの夏まつり」でのドリームチームのパフォーマンスに話を戻そう。このスーパーユニットのセンターに選ばれたのは乃木坂46生駒里奈だった。これがどういう経緯で決まったのは知らないが、指原莉乃山本彩松井珠理奈にしてみれば「なぜ自分じゃないんだ」と思ってもおかしくないだろう。かくしてこのスーパーユニットのパフォーマンスは華やかなエース級メンバーの共演というアベンジャーズ的なお祭りから一気に「シビル・ウォー」へと様相を変える。この中では正直、自分たちの持ち歌でありながら欅坂メンバーの存在感は薄かった。先輩たちへの遠慮もあったのかもしれないが、それ以上に「同じ曲演ったら負けやしない」という、48グループと乃木坂の欅坂に対するプライドがハッキリと現れて、各グループ同士バチバチのやり合いが凄まじかった。センターの生駒はクールな無表情で「制服のマネキン」時を彷彿とさせる圧巻のパフォーマンス。これで溜飲を下げたと言っていいのかはわからないが、意地を見せたのは間違いない。「サイレントマジョリティー」という圧倒的に優れた楽曲を中心として、48グループの現在地が垣間見える貴重なパフォーマンスとして僕の目には映った。これから彼女らにどのような曲が与えられるのか。笑顔の裏にあるドラマからも目が離せない。


Silent Majority - 46 and 48 the Dream Team