無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

たまに聞くならこんな音。

Everything Must Go

Everything Must Go

 CDを再生した途端、「あの音」が部屋の中に広がって行く。恐ろしく記名性の高い、唯一無比の音。時間の流れを感じさせないと言う意味においては、日本では山下達郎、アメリカではスティーリー・ダンという感じではないだろうか。20年ぶりの復活作となった『トゥー・アゲインスト・ザ・ネイチャー』以来3年ぶりの新作。
 僕が彼らの音楽をはじめて聞いたのは中学生の時だったろうか。あまりにも完璧で破綻のない、美しい音の世界に引き込まれてしまったのを覚えている。しかしその美しさはプラスティックに作り込まれたものではなく、マネキンのように完璧なフォルムでありながら人間の生身の温かさをも感じさせるものだった。それはドナルド・フェイゲンのエレピやウーリッツァーの柔らかい音色のため、という気がする。今作でもそうだが、基本的に彼らはプログラミングを多用しないのも要因だろう。あくまでもバンドありきという考えなのだ。しかしいつ、どのアルバムを聞いてもハイソな音だ。そして歌詞もそう。一般庶民とはちょっと違う、というか、月に一度くらいは高級なお店で食事でも、というたまに行くならこんな店的な高級感。ジーパン破れたロックばかり聞いているとたまにはこういう音も聞きたくなるものだ。少なくとも僕の音楽遺伝子の中には確実にそういう部分がある。
 どこまでもアメリカ。そしてNY。形は違えど、ある面でアメリカを体現しているアーティストという意味でスプリングスティーンやディランと同じなのかもしれないな。などと、本作の1曲目と最後の曲を聞いて思うのだった。