無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

あまりに重いプロの業。

ミスティック・リバー [DVD]

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 3人の幼なじみが25年後、忌まわしき殺人事件をめぐって再会する。1人は被害者である19歳の女性の父親として。1人は、事件を捜査する刑事として。そしてもう1人は、容疑者として…。デニス・ルヘイン原作の骨太なサスペンスドラマをクリント・イーストウッドがこれまた実に重厚な作りで仕上げている。主役の3人はショーン・ペンティム・ロビンスケビン・ベーコン。ハリウッドきっての演技派であり、各々映画監督、製作も手がける一流の才能が一堂に会している。脇を固める役者も粒が揃っていて隙がないほどに密度の高い演技と演出の応酬が味わえる。俳優、監督、スタッフ全てが一流のプロフェッショナルだからこその完成度だろう。震えが来る。
 殺人事件の犯人探しのサスペンスもさることながら、この映画のテーマはひとつにはイノセンスの喪失と、もうひとつは人生の岐路となる出来事と、それをやり直すことのできない人間の弱さ、愚かさとでも言うものだ。登場する人物は誰もが過去に心に重い傷を負っており、いまだにその傷から逃れられないでいる。それゆえに彼らは判断を誤り、一度外れかけた運命の歯車は大きく狂い始めることになる。幼い頃は誰しもが自分を中心とした小さな世界の王様でいることができる。しかし、社会という大きな壁にぶち当たり、自我を持たざるを得なくなったとき、少年時代は終わる。この映画では、冒頭、3人の少年のうち1人が誘拐されたときがまさにそれだ。あの時、さらわれたのが彼(自分)でなかったら…。いまだに我々はあの時、誘拐犯の車を見送ったままの少年なんだ、というラスト近くの台詞は見るものの心に確かな跡を残すだろう。
 派手な爆発シーンもないし、セクシーショットもない。笑えるシーンもない。現在のハリウッドの潮流には全くそぐわない映画だが、絶対に一見の価値のある映画だと思う。イーストウッドの演出はほとんど完璧だ。この映画の唯一の欠点は、完璧すぎて息苦しくなってしまう所かもしれない。