無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in EZO感想(2)

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in EZO
■2015/08/14@石狩湾新港

 友人たちと合流し、レッドスター横のレストランエリアで夕食。ラコスバーガーをいただく。そしてサンステージに移動し、アジカンを待つ。そのままレッドスターにとどまってThe Dayを見るのと迷ったが、久々なのもあってアジカンを選択。アジカンを見るのは前回RSRに来た2012年(プリプリが出た年)以来だと思う。あの当時のゴッチは震災後の諸々のアクションとともに、アジカンのバンド運営的にもかなり尖っていた時期のようにも思う。あまりステージでも笑顔を見せなかった記憶がある。今年のアジカンは「センスレス」から始まり、『Wonder Future』の曲を交えつつ、ほぼベストヒットパレード。フェスでのメインステージ初日のトリにふさわしい選曲でイケイケのステージだった。誤解を恐れずに言えば、いい意味でアジカンのコピーバンドのようなセットリストだったと思います。ボサボサのパーマ頭によれよれのトレーナーで登場したゴッチもリラックスして楽しそうだ(笑顔という感じではなかったが)。政治的なことについて何か言うかと危惧していたのだけど、直接的な言及はなかった。ただ、「ホント楽しい。最高だね。」という言葉の後、「こんな楽しいフェス、おれたちがおじいちゃんになっても続けようよ。50年後、60年後、70年後も。」ということを言っていた。「70年後」という言葉に今年ならではの意味を持たせたのだと思う。アンコールに応えて出てきて演奏したのは「遥か彼方」。盛り上がらないわけはないのです。アンコールでゴッチはトレーナーを脱いでTシャツ姿だった。胸には大きく「LOVE」と書かれていた。

ASIAN KUNG-FU GENERATION
1.センスレス
2.君という花
3.ソラニン
4.君の街まで
5.ループ&ループ
6.Easter/復活祭
7.Little Lennon/小さなレノン
8.Planet of The Apes/猿の惑星
9.リライト
10.転がる岩、君に朝が降る
11.今を生きて
en1.遥か彼方

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夜のイングラムもカッコいいな。 #RSR15

 ちょっとテントに寄って少し休んだ後、アーステントに。REBECCA Electronic Session。わざわざ「Electronic Session」と銘打っている以上、通常のバンドセットとは違うことは分かっているけれど、果たしてどういったものになるのか不安が残る。ステージ上にはDJテーブルがあるのみ。時間になり、DJとして土橋安騎夫氏が登場。EDMアレンジでレベッカの曲を流し始める。そして黒のドレスをまとったNOKKOも登場。ひらひらと舞い踊りながら、リミックスされたアレンジでレベッカの曲を歌い始める。このDJリミックスバージョンの音源はアルバムとして発売されるらしい。それもあっての今回のステージだったのだと思います。それはまあいいですが、残念だったのはバックトラックがその音源そのままだったのか、ボーカルが乗っているのです。つまり、音源のボーカルとNOKKOが生で歌っているボーカルと、両方重なっていたのです。これは折角なので生のボーカルだけで聞きたかった。NOKKOの声は聞く限り衰えも感じられなかったので、勿体なかったと思います。EDMアレンジのサウンド自体は最先端のバキバキというよりはまあ、こんなもんかなという印象。正直誰得のリミックスなのかわかりませんが、リリースされたら気軽に使ってみてもいいかもと思えるものでした。セトリとしては代表曲ばかりで楽しかったです。アンコールに応えて二人が再登場しましたが、「時間がなくて、これしか曲を用意してこなかったのですいません。」と、急遽トークショーに(笑)。レベッカとして北海道に来た時の思い出話などしておりました。いろんな意味でアフターパーティー感に溢れるステージだったと思います。

REBECCA Electronic Session
1.MOON
2.Friends
3.Little Darling
4.RASPBERRY DREAM
5.OLIVE
6.76th star

 そのままレッドスターに移動し、FRIDAY NIGHT SESSIONSに。聞こえてきたのはファレル・ウィリアムスの「HAPPY」。CDを流してるのか?と一瞬思ったら、ライブ演奏でした。すごい完コピ。今年のセッションはSCOOBIE DOがホストとして、様々なゲストボーカルを呼ぶというもの。「HAPPY」はUNCHAINの谷川だったようです。僕は聞いたのはTHE BAWDIESのROY登場から。レイ・チャールズの「What'd I Say」をソウルフルに歌い切りました。続いてはハナレグミマイケル・ジャクソンの「Human Nature」を歌いましたが、マイケル風のラメ手袋を仕込んでの登場。スクービーのコヤマシュウが、初めてライジングサンに出た時にハナレグミと共演できたことが嬉しかった、だからいつか自分たちがホストになっていろんな人と共演する場を作りたかったということを熱く語っていたのだけど、当の永積タカシが全くその時のことを覚えておらず、熱量のギャップが面白かったです。続いては福原美穂。「札幌市南区出身!」と何度も言われてました。昨年もチャボのセッションに登場していたようだけど、今年も登場。「君の瞳に恋してる」を素晴らしいボーカルで熱唱。まだライジングサンには単独のステージとしては出演したことがないので、地元出身の歌姫としてぜひWESSにはお願いしたい。彼女は出るべきでしょう。いよいよクライマックス、レキシ池ちゃん登場。「最近フェスで押すと全部オレのせいにされる」と爆笑MCを展開。コヤマシュウと池ちゃん、二人が話すと完全に漫才。全然演奏が始まらない。よく見たら池ちゃんの手にはハナレグミがつけてたマイケル手袋が。そんなこんなでアース・ウィンド&ファイヤーの「セプテンバー」をいいかげんな歌詞でコール&レスポンス。ほっといたら1時間くらいやってそうだった。最後は全員で「ヤングマン」を振りつきで。お祭り感満載のセッション。楽しかった。そしてアンコールに応えて登場したバンドが呼び込んだのは…御大、つのだ☆ひろ!本物!「メリージェーン」を驚愕のボーカルで歌い切り、レッドスターはミラーボール輝くディスコのチークタイムと化したのです。
 お腹一杯のセッションを終え、ちょっと涼しくなったので豚汁をいただき、会場を後に。ここ数年の恒例ですが自分のテントは友人に貸し、僕は札幌の自宅へ帰って寝ることにしてます。ベッドで寝れるし充電もできるしシャワーも浴びれるし最高です。
(2日目に続く)
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初日終了。帰ります。また明日! #RSR15

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in EZO感想(1)

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in EZO
■2015/08/14@石狩湾新港

 17度目のライジングサン。当然のように、今年も参戦です。行かないという理由がありません。今年は前夜祭のみならず、前々夜祭つまり水曜日から前乗りした道外の友人たちと飲み、気分を盛り上げてました。この時点でスペシャル。超楽しい。
 若干の二日酔いをたたえつつ、車に荷物を積み込み出発です。ここ数年のパターンですが、10時開場に向け8時に待ち合わせ、実質の出発はおよそ8時半。コンビニに立ち寄りつつ会場近くに着くのは大体9時半頃。今年はなんとか会場内駐車場をゲットできたので移動は楽です。会場に行くには新川通り経由で小樽側から行く道と国道231号(石狩街道)経由で行く道とがあるわけですが、経験上前者の方がスムーズに駐車場に入れる気がします。開場前には駐車場に入り、入場の列に並ぶことができました。ただこの入場待ちが恐ろしい行列。ゲートをくぐったのは10時半くらいでした。テントサイトの引き換えはスムーズに済み、エビのエリアへ移動。今年は映画のキャンペーンでパトレイバーの実物大イングラムが来ており、会場の警備は万全。安心して楽しめそうです。天気は晴れたり曇ったり。雨の予報もあり。天気はかなり細かく変わりそうな感じ。日中はかなりいい天気で気温も上がってきました。そんな中無事にテント設置。ようやくビールと昼食。
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コンディション・グリーン。 #RSR15
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からあげ丼とビール!ようやく!
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最高かよ。
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cheers! #RSR15

 今年のライブ一発目はレッドスターフィールドでサニーデイサービス。レッドスターはステージの位置や向きが若干変わったのと、ステージそのものが少し大きくなったようです。サニーデイは再結成後にライジングサンで見て以来、のはず。キーボードのサポートはなく、3人のみでのステージ。昨年リリースの新作『Sunny』からを含め、代表曲もきちんと押さえての余裕感あるセット。ちょうど日が陰ってきた午後の空気にすごくハマっていた。全く無理してないリラックスした演奏がとても心地よい。曽我部ソロでもなくソカバンでもなく、サニーデイにしかない空気感というものは確実にあって、それが曽我部恵一いうところの「書生の音楽」ということなんだろう。文学的でありながら、実は野外の空気によく合うのだ。夏のアンセム「サマーソルジャー」を聞きながら泣きそうになってしまった。この曲を聞くと、1999年の朝日を思い出します。

サニーデイサービス
1.恋におちたら
2.八月の息子
3.スロウライダー
4.アビーロードごっこ
5.NOW
6.白い恋人
7.青春狂走曲
8.シルバー・スター
9.ONE DAY
10.サマーソルジャー

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ホントだなんかレッド大きくなってる。

 後ろのレッドスターカフェを見ると9㎜ Parabellum Bulletの菅原卓郎と中村和彦がアコースティックライブをやっていた。福山雅治中森明菜の「飾りじゃないのよ涙は」、9㎜の「The Revolutionary」などを演奏。「Black Market Blues」ではアコギだとカッコつかないということでギターリフパートを客に歌わせてました。最近はモッシュがきついのでフェスでも9㎜を見る機会はあまりないのですがこういうのはたまにはいいですね。
 さてどうしよう、と困ったときのボヘミアンガーデン。特に見たいものがなくのんびりしたいときはボヘミアンで飲みながら横になるのが最高です。ちょうど堀江博久 Presents "Lounge Bohemia"のサウンドチェックをやってました。そのまま友人たちとPA前に横たわり、うたた寝しながら心地よい音に体を任せてました。気持ち良い。そのうち原田知世が出てきて「ロマンス」とか歌ってました。もう、超かわいい。僕よりも全然年上なんだけど、関係ない。昨年、森高千里を見てそのキュートさに驚愕しましたが、それに匹敵しますね。pupaで見たのも数年以上前でしたけど、その可愛さに衰えなし。恐るべし原田知世

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一天俄かにかき曇る。

 陽も傾いたころ、アーステントに向け移動開始。この時間になってぽつぽつと雨が落ちてきた。それなりに降ってきたのだけど、すぐにやみそうな気配もある。一応、テントに寄って雨具の準備だけはしておく。MONOEYESはかなりパンパンだったので後ろの方で見てました。動く細美氏を見るのは多分5年ぶりくらい。MONOEYESの曲は最初のEPしか聞いてないのでアルバムの曲は分かりませんが、非常にストレートなポップパンクという感じで、あまり難しいことを考えずに盛り上がれるもの。音楽的に深く複雑化していっているHIATUSとは真逆のアプローチで音楽をやりたかったのだと思う。ただ、じゃあELLEGARDENじゃダメなの?という疑問はどうしても出てくるのだけど、エルレはついてくる重荷がハンパない状況になっているのだと思う。そういう部分から解放されて初期衝動のままに音楽を楽しむ場所がほしかったのかも、などと推測したりする。そんな感じのステージでした。

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若干冷えてきたこの時間に今年初けずり。全然並んでない。

 レッドスターに移動。佐野元春まであと10分くらいというところだったけど、意外とステージ前はまだ空いていて正面前から5~6人目くらいの位置を確保。デビュー30周年ライヴも含め、近年の佐野元春もフォローしていたけど、リリースされたばかりの最新作『BLOOD MOON』もいいアルバムだったのでその勢いでの夏フェス参戦に期待は膨らむ。レジェンド枠と言っていい大ベテランだけど、バリバリの現役でもある。そして、ここで初めて生の佐野元春を見るという若い観客もいるだろう。どういうステージになるのか楽しみだった。THE COYOTE BANDはHOBO KING BANDに比べて若い(と言ってもメンバーは僕と同世代だが)。レイドバックしたブルース感よりはロックンロールの疾走感が前面に出る演奏が彼らの魅力だと思う。当然、古いレパートリーもそうしたテイストのアレンジになる。特に違うのはホーンセクションがいないので、サックスなどがリードしていたフレーズも鍵盤やギターが担うことになる。「君をさがしている」でいきなりその特色が露わになっていた。「国のための準備」の前には70年目の終戦記念日を前にして少し政治的なMCを。「今、僕たちの国の政治は、ちょっととっ散らかっている。」と、彼らしい言葉を紡ぐ。ここで「安倍政権にNOを」とか直接的な表現に行かないのが元春らしい。そういう状況の中でどのようなスタンスでものを考えるのか、ということに終始するのだ。ポリティカルな姿勢を打ち出すことはあっても、彼はアジテーターではなく、あくまでもオブザーバーなのだ。新作からの曲を挟み、「少し古い曲をやってもいいかい?」と元春は言う。「もし歌詞を知っていたら、一緒に歌ってほしい」そう言って始まったのはあのイントロのドラム。「サムデイ」だ。一気にレッドスター全体がどよめきと歓声で揺れる。
老若男女全てが拳を上げて合唱する。まさに必勝のアンセムである。続いて「約束の橋」へ。歓声はやむことがない。「アンジェリーナ」の前に、「僕は35年前この曲でデビューした。この曲で日本の音楽シーンを驚かせてやろうと思った。その思いは今でも変わっていない」というようなことを言った。とてつもなくカッコいいと思う。実際、この日も「アンジェリーナ」は最高のロックンロールだった。35年前のデビュー曲が懐メロではなく、着心地の悪いサイズの違う服でもなく、今鳴るべき曲として鳴っているのが本当にすごいと思う。現役ロックミュージシャンとしての矜持と、大ベテランとしてのフェスでの役目、どちらも満足する素晴らしいステージでした。

佐野元春 & THE COYOTE BAND
1.君をさがしている
2.La Vita E Bella
3.ポーラスタア
4.国のための準備
5.優しい闇
6.境界線
7.サムデイ
8.約束の橋
9.アンジェリーナ

シロップ劇場~サイケデリック後遺症~

syrup16g tour 2015『Kranke』
■2015/07/03@オリックス劇場

 昨年の「再発」ツアーの時は、あのシロップが復活するという事実に興奮を抑えきれなかった。「五十嵐は生きていたのか?」「歌えるのか?」「そもそも、人前に出られるのか?」など、様々な思いを胸に会場に赴いた。それに比べれば今回は冷静にフラットな気持ちでライヴに臨めた気がする。とは言ってもまたいついなくなるかわからないので、シロップのライヴを見られる現実を当たり前だとまでは思えない。こうして五十嵐がステージに立つことを幸せに思うばかりだ。
 会場のオリックス劇場は3階席まである椅子席のホール。キャパは2000人クラスか。個人的に椅子席でシロップのライヴを見るのは2008年の武道館以来になる。新作ミニアルバム『Kranke』から「songline」のSEが流れる中緞帳が上がり、3人がステージに現れる。「新曲やりに来ました」という五十嵐の言葉通り、『Kranke』からの曲はすべて演奏。昨年の『Hurt』も含み、過去の曲がそこにちりばめられるセット。大きく分けると、「冷たい掌」から「Stop brain」までの前半、「My Song」~「吐く血」までの中盤。そして後半という感じ。前半は割と激しい曲を中心に攻める。五十嵐のテンションは高かったようで、寝転がってギターを弾いたりしていた。ライブハウスだとよく見えなかったかもしれないが、ホールだったので上から寝てるところもよく見えました(自分は2階のせり出し席だった)。
 今回のセットでキーになるのは中盤だと思う。ミディアムテンポの曲を中心にじっくり聞かせるパートという感じで、『Kranke』のジャケットにもあったオイルアートのビジュアルがスクリーンに映し出されてサイケデリックな雰囲気を醸し出す。意図的なのかどうか、『HELL-SEE』の曲がここに固まっている。攻めているときにはかなり歪んでいるギターが、ここでは完全にニューウェーブの音の作り。もっと簡単に言えば、ポリスのアンディ・サマーズ。アルペジオになると特にまんまである。個人的にこういうタイプのサウンドが好きなので、『HELL-SEE』は嫌いになれないアルバムだし、この日もこの中盤が聞いてて一番楽しかった。
 何か不満があるのかというくらいに中畑が叩きまくる「Share the light」イントロのドラムを合図にライヴは一気にクライマックスに突入する。「天才」「真空」「神のカルマ」など、怒涛の展開。2階席だったのでメンバーの表情までは見えなかったけど、やはり昨年のツアーよりもリラックスして演奏自体を楽しんでいたような気がする。五十嵐はMCのたびに「ありがとう」を連発していた。過去の曲は万遍なく選ばれていたように思えるけど、『COPY』からは1曲もなかった。昨年のツアーではやっていたので意図があってのことなのかはわからない。本編後半の展開の中で「生活」くらいはやってほしかったかなと思う(東京ではアンコールでやっていたらしい。クソっ)。
 あと椅子席で、全員が立って見ていたわけではないのもあって僕が一番いいと思った中盤の展開でも客席の空気としてはダレる部分も正直あった気がする。隣のやつは寝てたし(ありえない)。スタンディングならそんなこともなかったのかもしれない。あとは昨年のツアー時に言っていたように「このツアーが終わったら外出しない。外に出るの苦痛」にならないことを祈るばかり。また、待ってます。

■SET LIST
1.songline(SE)
2.冷たい掌
3.生きているよりマシさ
4.To be honor
5.HELPLESS
6.Stop brain
7.My Song
8.明日を落としても
9.正常
10.シーツ
11.吐く血
12.Share the light
13.天才
14.真空
15.パープルムカデ
16.神のカルマ
17.Thank you
<アンコール1>
18.vampire's store
19.落堕
<アンコール2>
20.リアル

Kranke

Kranke

2度目の「変身」。

共鳴(初回生産限定盤)(DVD付)

共鳴(初回生産限定盤)(DVD付)

 チャットモンチー6枚目のオリジナルアルバム。前作から橋本絵莉子の入籍・出産を経ての製作となったため、彼女らのアルバムとしては最も長い2年7カ月のインターバルが空いている。昨年のライブ活動復帰から恒岡章、下村亮介をサポートとした4人体制となったことが話題になった。恒岡は以前「性転換したらチャットモンチーに加入できるのだろうか」とツイートしたこともあるが、ラブコールが実ったということだ。
 レコーディングではこの「男陣」と呼ばれるサポート体制と、世武裕子、北野愛子の「乙女団」サポートによる体制、橋本と福岡の2名による体制がバランスよく配置されている(1曲のみ橋本・福岡・恒岡の3名体制)。当然ながらこのサポートによるバンド編成の変化が本作の肝で、チャットモンチーの歴史的にも前作で2名体制になった時と同じくらい重要な音楽的変化をもたらしている。
 『変身』の2名体制だった時は「何でもあり」というアイディア先行の勢いがあり、本職の楽器ではない下手さや音の隙間もユニークな魅力として受け入れられるものだった。ライヴにおけるアクロバティックな演奏は感動的ですらあり、「この2人の中に入ってチャットモンチーになれる人間はこの世にいないのではないか」と思わせるほどだった。しかしやはり限界は感じていたのだと思う。プロのサポートが脇を固めたことで、音のスキを魅力に転化したり言い訳にすることはできなくなった。サウンドを強化することで、本来の曲の良さや魅力をストレートに最大限表現している。そしてそれがチャットモンチー最大の武器であり、チャットモンチーの唯一性の根拠であることが本作で証明されていると思う。全うなロックバンドの体制になったことでむしろ逆説的に「あ、チャットモンチーってやっぱすごいバンドだったんだ」と分かってしまう。そんなアルバムになっている。「男陣」「乙女団」をどの曲に配置するかのセレクトも非常に的確で、現サポート体制でのバンドの魅力をうまく引き出す構成になっていると思う。そしてこの中に2人体制の曲がある種の「異物」としてあるからこそ引き立つという形にもなっているのだ。
 あと思ったのは、橋本の書く歌詞が全く変わっていないこと。勿論みんながそうというわけではないが、女性アーティストの場合、結婚や出産を経て歌詞の視点や世界に変化が現れる例も多い。それが彼女の場合驚くほど変わっていないのだ(少なくとも僕にはそう見える)。この軸のブレなさがチャットモンチーの強さの元なのかもと思ったりした。
 チャットモンチーのアルバムとしては今までで一番音楽的に完成度が高いと思うし、何度でも楽しめるアルバムだと思う。好きです。

サヨナラだけが人生だ。

eastern youth 極東最前線/巡業2015~ボトムオブザワールド人間達~
■2015/05/24@梅田クラブクアトロ
■2015/06/06@札幌cube garden

 決してバンドが解散するわけではない。が、ベース二宮がこのツアーを最後に脱退するというニュースを受け、今回のツアーはすべてのイースタンユースファンにとって特別な意味を持つものになってしまった。ツアーラストは、彼らの地元札幌。偶然なのかは分からないが、二宮のラストを飾るのにこれ以上ふさわしい場所はないだろう。
 開演前から会場は一種異様な雰囲気。メディアも多く来ていたようで、会場の前では観客へのインタビューも行われていた。道外から来ているファンも多くいたようだ。札幌でこういう雰囲気のライヴというのは、規模は若干違うけどナンバーガールの解散ライヴ(ペニーレーン)をちょっと思い出した。ドリンクの交換もままならないほどに人が溢れ、こんなにパンパンになったcube gardenは初めてだった。
 集まった観客の思いはそれぞれあれど、ライヴはあくまでもアルバム『ボトムオブザワールド』のツアー。特別な演出や仕掛けはなく、ステージ上に3人が現れ、淡々と始まる。むしろつとめて淡々としようとしていたのかもしれない。アルバムの曲を中心に序盤は進む。もちろん曲はいい。「街の底」は今後もライヴのレパートリーになるだろう。演奏もいい。個人的にはこの序盤で「沸点36℃」が演奏されたのがうれしかった。よし、ここからイケる!と思ったのだが、あくまでもステージ上の3人は淡々と新曲を演奏し続ける。正直、「茫洋」のあたりでは不安にすらなった。これはニノさんのラストライヴなのだ。淡々と新曲を中心に演奏するアルバムツアーでパンパンの観客が納得するはずはない。ステージ上で「今」のイースタンユースを噛みしめる3人と、「これまでの」イースタンユースを清算しようとする観客。そのズレが序盤では出ていたように思う。
 しかし、「月影」のイントロでニノさんのベースが唸った瞬間にその空気は一変する。フロア前方に人が押し寄せ、ここまでの鬱憤を晴らすかのようにモッシュが起こる。サビでは拳を上げ、大合唱。5/24の大阪ではダイヴをする不届きな輩もいたのだが、札幌ではそれはなかった。さすが地元。ここからは怒涛のヒットメドレー。一般的な意味でのヒット曲など存在しないイースタンユースにヒットメドレーというのも変な話なのだけど観念的な意味で、である。過去の名曲が演奏されるたびに、ああ、この曲をニノさんが弾くのも最後なのか、という思いが去来する。それを振り払うようにまた拳を上げ、声を上げる。この中盤でようやく、観客の思いは昇華され始めた。
 「踵鳴る」が終わり、ニノさんのMCが入る。次の「直に掴み取れ」に続く話なのだけど、大阪ではとんでもない下ネタであった。「最後のツアーでそんな話かよ!」とツッコミたくなるほどのひどい内容。うんこ掴むってなんだよ(笑)。そして、本編のラスト3曲はバンドからニノさんに向けての手向けというか、様々な思いを凝縮したようなものだった気がする。「グッドバイ」で別れを告げ、これまでの歩みに「万雷の拍手」を送る。そして、彼が去った後のバンドの未来を覚悟するように、「荒野に針路を取れ」なのだ。ドラマティックとしか言いようがない。札幌では、「荒野に~」の前、今回のツアーではほとんどMCをしない吉野が口を開いた。「俺たち三人イースタンユース、旅はまだまだ続くんだ!」ここで僕の涙腺は完全に崩壊した。
 周りを見ると、ほとんどの人が涙を流している。号泣している人も多かった。イースタンユースのライヴは毎回泣くのだけど、今回は少し意味が違う。アンコールで改めてニノさんはマイクを任された。「まだバンドは続きますし、私もノコノコと生きていこうと思います。もしどこかで会うことがあれば、あの、何かください(笑)。これからも、我々三人をよろしくお願いします。」泣けた。2度目のアンコール、「夜明けの歌」は、涙でほとんどよく見えていなかったと思う。声も出していたけれど、多分声になっていなかったと思う。大歓声の中、ニノさんはステージを後にした。三人とも、表情は晴れ晴れとしたようだった。やり切った、ということなのだろうか。
 イースタンユースは自分にとってとても大事なバンドで、技術とかとは別にしてこの三人で鳴らされる轟音がとてつもなく好きだった。見た目もパッとしないおっさん三人が目の前の霧を晴らしてくれる。そんなライブが好きだった。この三人のステージがもう見られない。この事実がただただ寂しい。この先、バンドは少し休息を取るだろう。どういう形で再始動するのか、今はまだわからない。
それでも、これからもイースタンユースを好きでいる自信はあるし、大事なバンドであることに変わりはない。つらいことはあっても、バンドは続く。逃げても逃げても朝は来る。僕もまた、ノコノコと生きていこうと思った。

 ニノさんありがとう、お疲れ様でした。僕は貴方のいたイースタンユースが本当に好きでした。

■SET LIST
1.街の底
2.鳴らせよ鳴らせ
3.沸点36℃
4.イッテコイ カエッテコイ
5.茫洋
6.ナニクソ節
7.月影
8.男子畢生危機一髪
9.青すぎる空
10.雨曝しなら濡れるがいいさ
11.テレビ塔
12.踵鳴る
13.直に掴み取れ
14.グッドバイ
15.万雷の拍手
16.荒野に針路を取れ
<アンコール1>
17.夏の日の午後
18.砂塵の彼方へ
<アンコール2>
19.夜明けの歌

ボトムオブザワールド

ボトムオブザワールド