無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

Sweet

Sweet

 スガシカオの3作目。前作は非常にへヴィーなファンク・サウンドを基調としていたが今作はやや軽め。といってもそのファンクネスは現在のシーンの中では異彩を放っていることは間違いない。
 歌詞のほうはいつもと変わらず男女間のどろどろとした情念を歌ったものが多いがその言葉はいちいち心に刺さる。例えば1曲目「甘い果実」。これは半ばストーカー的に女性を追いかける男の歌なのだが、完璧な関係なんてない、壊れることは前提であるという関係をことさら美しく描き出す。「甘い果実みたいに/僕の中で/腐っていくんだ/君へのこんなにも深い/この思いは/変わってしまうんだ」
 あらかじめ手に入らないものへの限りない憧憬、スガシカオの歌は基本的にその一点にむけられている。どろどろとしたラブソングでもセクシャルな描写の曲でも「夜空のムコウ」のような曲でもそれは同じことなのだ。ファンクネスはより濃密にその憧憬を浮き彫りにする。個人的に最も好きなのは3曲目「夕立ち」。「ふいに君が口ずさむ/僕は聞いてる/聞き覚えのないメロディー/もう/消えてしまうくらい/小さな声で/やがて途切れてしまう」。そう、途切れてしまうのである。君への思いは変わり、君の声は途切れる。なんという切なさだろう。しかし、このアルバムを聞いた余韻は決して暗くはない。胸を締め付けるような「切なさ」を極上のエンターテインメントにする。このアルバムはその意味で99年No.1だと言える。