無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

旅人の歌。

WILL

WILL

 僕が初めてピールアウトというバンドに触れたのは、音源よりもライブの方が先だった。その時は、ピアノ入りの3ピースというスタイルの面白さ以上に、なんて激しいライブをやるバンドなんだと思った記憶がある。でもその激しさは暴力的では全くなく、むしろ温かさ、寂しさ、切なさというような感情を伴うものだった。その印象は、その後アルバムを聞いてもなんら変わることはなく、とことん愛と孤独に向き合い、その中から出てくる感情を砂金を取るように丁寧に掬い上げていくバンドなのだなと思った。
 この新作もまさしくそういうものだと思うけれども、その、掬い上げた砂金の純度が素晴らしく高いものになっている。メロディーも言葉も、そして音の粒子のひとつひとつが不純物のないままにキラキラと輝いている。性急な衝動に突き動かされるまま作ったかのように、青臭く清々しいロックンロールがアルバムいっぱいに広がっている。まるで20歳そこそこのバンドのデビューアルバムのようだ。が、決してこのアルバムは20歳そこそこのバンドには作れないものだろう。
 「透明の地球儀」という曲が好きだ。この曲は浮谷東次郎にインスパイアされたとクレジットされている。浮谷は、日本のモータースポーツの黎明期に活躍し、 1965年に23歳の若さで事故死したドライバーである。この曲のスピード感あるメロディーと、明るく跳ねるビートを聞いていると、無性に中学生や高校生の時の学校の帰り道を思い出す。今の自分がそこから遠く離れてしまったことを嘆きつつも、何もまだ諦めることなどないのだと言われているような気になる。何度も何度も聞いたけど、その度に涙が出てきて止まらない。自分の地球儀が透明であるかどうかではなく、透明の地球儀に隠れた色を見つけ出せるかどうかなんだ。「目にしてるもの全てが/感じてるもの全てじゃないんだ」。隠れた色を見つけるために、明確な意思(=WILL)を持つこと。このアルバムは、そんな揺るがない確信に満ちている。とても大事にしたいアルバム。