開戦前夜。
- アーティスト: Syrup16g
- 出版社/メーカー: 日本コロムビア
- 発売日: 2002/09/25
- メディア: CD
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「水色の風」にはバンプ・オブ・チキンの藤原基央がコーラスで参加している。五十嵐と藤原という、今日本のロックで最も色気のある声の持ち主二人がハモった時の感動はすごい。濡れる、というか、もう、背筋に来る。僕は『COPY』で初めてシロップを聞いたときからバンプとの共通点を意識的にも無意識的にもずっと感じていたのだけど、この2バンドは結構仲がいいらしい。彼らの中にも通じる部分、感じ合う部分があるのだろう。
このアルバムにはラブソングが多い。正確に言えば、(妄想なのか具体的に存在するのかは置いといて)「あなた」に向けられた曲が多い。自分さえ不確かなのに、いくら追い求めたとて手に入るはずもない「あなた」、他者、安心。成就するべくもない歪な愛情は糸の切れた風船のようにただ流されるのみ。この作品を流れる静かで、どこか霞がかったトーンは、どうしようもなく閉じた行き止まりの中でうつろに漂う諦念とでも言うものだ。外の世界との接点を自ら放棄して、殻の中に引きこもり、自分の弱さを棚に上げ、世の中はこんなにもくだらない、どうしようもない、夢はない、と吐き続ける、つまりは疑う余地のないほどに欠落した人間の鳴らす音楽。そしてそれは間違いなく一時期の五十嵐隆という人の姿なのだ。程度の差こそあれ、100%今の自分と毎日の生活に満足しているという人間でなければ誰もが同じ思いを抱えていることだろう。シロップの音楽がリアリティを持ち、ゆっくりとでも確実に多くの人間を惹きつけているのはそのためだと思う。
自分が生まれ死ぬまでの間に、生きている理由はどこにあるのだろうか。そもそも見つけられるのだろうか。生きる価値はあるのか。死ぬ意味はなんだ。僕の隣に誰もいないのはなぜだ。そんな答えのない問いを繰り返し、「昨日が今日より素晴らしい日なんて当たり前のことさ」と逆説的に吐き捨てるしかなかった青春の置き土産。このアルバムの中にある魂はまだ汚れていない。汚れたいけど、汚れていない。そしてここから、生まれ変わって、いくのだ。
僕はシロップ16gというバンドに出会えたことを心から幸福に感じているけれども、この過去の作品集はその想いをますます確かに、そして深いものにしてくれた。あまりにも切なく、虚しく、そして美しい、静かな夜明け前。