無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

「普遍」と「不変」。

Rarities

Rarities

 山下達郎がムーンに移籍後にたまったアルバム未収録曲、シングルカップリング曲、未発表バージョン、他のアーティストへの提供曲のセルフカバーなどを集めた編集盤。
 曲調も、レコーディングされた時期もバラバラで、ともすればまとまりのない寄せ集めになってしまうようなコンセプトのアルバムだがそんな印象はほとんどない。最も古い音源は1983年発表のシングル「スプリンクラー」のロングバージョン。逆に最も新しいのは今回録音し直したカバー曲。実に19年の時間差がある音源が1枚の中に入っているわけだけど、違和感や古さなどを感じないというのは驚嘆すべき事実だと思う。全く知らない人が聞いたら今出たばかりの新作だと思うかもしれない。それくらい1直線に並んでいる。彼に言わせれば同じ楽器を使っているとかリズムセクションが不動だからとかいうことになるのかもしれないけれどもなによりも彼の声という楽器が変わっていないのだからやはりすごい。彼の音楽の基盤にあるのは50年代、60年代のR&B、ポップスであるので、元々時代を切り開く最先端の音を作っているわけではない。ので、古くなりようがないといってしまうこともできるかもしれない。しかし、レコーディング技術の進歩すらここでは止まっているように感じる。当然今よりも劣る機材や技術の中で、自分の望む音をどれだけ追求して来たかということの証ではないだろうか。このアルバムに限ったことではないが、彼の音楽からはこういう音が好きなんだ、こういう曲が好きなんだ、という愛情と確信が溢れている。職人が丹精込めて作った小品集という趣のアルバム。
 自身によるライナーノーツも、相変わらずいい味。