無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

我が闘争。

Riot Act

Riot Act

 パール・ジャムというバンドはデビュー以来、常に戦いの中にその身を置いていた。エディ・ヴェダーという人は何をそんなにテンパっているのかというくらい、いつでも怒りに満ちていた。その戦う対象は自らを縛り上げるグランジという名の鎖であったり、自分たちのファンを苦しめるチケットマスターであったり、商業主義にまみれたミュージックシーンであったり、様々だった。
 しかし、本作でのエディはちょっと違う。「ラヴ・ボート・キャプテン」という曲名からも顕著なように、ここでの彼は愛を歌っている。ビートルズの「愛こそは全て」というフレーズを本気で今の時代に強く訴えかけようとしている。それは、自身も語っているように9人のファンを失うというロスキルドの悲劇を経験したことと、かの「9.11」を経て辿り着いたひとつの結論なのだろう。このアルバムの言葉は非常に重く、そして感動的だ。自らの人生と経験、そして世界との繋がりの中で生まれる様々な軋轢や葛藤。それをロックンロールとして鳴らすこと。当然ながら、本作もそうしたシンプルなプロセスによって作られている。グランジから10年、このアルバムとNIRVANAの「You Know You're Right」を聞いていると何か感慨深いものがこみ上げてくる。
 しかし、そうは言ってもエディ・ヴェダーは、そしてパール・ジャムはいまだに戦っているし、怒りを抱えている。「騒乱取締令」という意味を持つアルバムタイトルがそれを示している。9.11以降の世界の中でアメリカという国に住む人間の姿がここにある。「ブッシュリーガー」なんていう直接的なタイトルの曲もある。今にもアメリカはイラクを爆撃しようとし、北朝鮮は核を持ち出して世界を威嚇している。こんな世界だからこそ、エディ・ヴェダーは今愛を歌う。あまりに無骨ではあるが、こんなロックのロマンティシズムが僕は大好きだったりする。