無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

スピルバーグ、60'sへのオマージュ。

 1960年代、10代で世界をまたにかけ、何百万ドルもの大金を騙し取った稀代の詐欺師。そんな冗談みたいな話が、フランク・アバグネイルという人の実話だと言うのだから驚く。この話を、スピルバーグは愛情とユーモアたっぷりに描いて見せる。
 フランクが詐欺師となったのは、父親の事業が上手く行かなくなり、両親が離婚するという青春時代のトラウマが原因となっている。自分が金を稼げばあの幸せな日々が戻ってくると彼は信じていたのだ。パイロットの制服に身を包み、飛行機の模型からパンナムのロゴマークをはがして作った偽造小切手を次々と換金して行くフランク。今では信じられない手口だが、その人間の身なり服装がその人そのものを現すと信じられていた時代があったということなのだろう。スピルバーグの演出や、ジョン・ウィリアムスの音楽も含めて、この映画はそんな古き良き時代へのスピルバーグなりのオマージュとも言える。近年の作品の中でもこの映画での彼の演出の冴えは突出してると思う。
 いくら金を稼いでも、パイロットの制服で父親に車をプレゼントしても、幸せな家庭に戻ることはできず、逆に父親に見放されてしまうフランク。そんな彼にとって、もう一人の父親と言うべき存在となるのがトム・ハンクス演じる刑事である。彼に捕まえられることによって、彼は別の家族を手にすることになる。この映画が成功しているのは、単なる詐欺師の物語というだけではなく、父親と息子、家族の物語として描かれているという点だ。ディカプリオはもう30近い年齢になるのだけど、高校生の役をやっても全く違和感がない。『バスケットボール・ダイアリーズ』もそうだったけど、こういう、弱さ、若さを感じさせるティーンの役をやらせると彼は本当に上手い。最近のスピルバーグはちょっとなあ…とか、ディカプリオももうダメだよね…とか、トム・ハンクス太りすぎ…とか、余計な先入観抜きに見に行くと思わぬ儲けモノに出会えるかも、という映画。