無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

減る死。

HELL SEE

HELL SEE

 当初はマキシシングルの予定だったのが、それじゃイヤだからということで全15曲、しかも1500円という破格の値段で発売されることになったシロップの新作。昨年のメジャーデビューから1年たたずして既に3作目という怒涛のリリース。何をそんなに生き急いでいるのかという狂気の沙汰。しかもこれだけ大量生産された楽曲が全て名曲であり、五十嵐隆という人の才能が溢れんばかりに発揮されている。最小限のメロディーとコード進行でこれだけ曲の体温を上げ、クライマックスを演出できるのはすごいと思う。前作『delayed』は昔の楽曲を収録したものだったので、『coup d'Etat』からの流れでいうと本作が直接つながっているものと言える。『coup d'Etat』はサウンドにしても歌詞にしても極端に振れ過ぎた作品だったが、本作はいい意味でバランスがとれていて、前作のような柔らかい手触りもあって今までで一番聞きやすいアルバムと言えるかもしれない。サウンド的には五十嵐のニューウェーブ趣味と言うか、80年代を過ごして来たんだなあ、と分かるテイストが随所に現れている。「ローラーメット」のイントロなんかモロにポリスだもの。
 「生きる」ことを選んだとしても、死なないだけであればそれは全く意味のない時間の浪費だ。死は誰にでも平等に訪れるが、生はそうは行かない。テレビでニュースを見たときに感じるどうにもイヤな気持ち。でもそんなこととはまったく関係のない自分の毎日。あらゆる周りの干渉に耐えられない自分の弱さ。その痛さ。本作は、ウソ臭く汚れた都市の中どうにも上手く行かない人生のサウンドトラックだ。本作での五十嵐のソングライティングは一人称から三人称的なものが多くなっている。意識的かどうかわからないが、それが本作の伝わりやすさにつながっていると思う。彼と同じような、救われない魂がこのアルバムのどれかの曲で必ず主人公になっている。僕も、あなたも、きっとこのアルバムにいる。それはつまり、ポップだということ。