無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

毒をくらわばスガシカオまで。

SMILE

SMILE

 シングルカップリング曲などを再編集した前作『Sugarless』の時に、僕は「2年くらい休んでもいいからオリジナルが聞きたい」と書いたのだけど、その通り、待った甲斐があった。素晴らしいアルバムを届けてくれた。
 曲のパターンとしては大雑把に言えば新機軸と言えるものは特にない。描かれているのは、ドロドロとした救いようのない恋愛だったり(今回は同性愛ものもあり)、カラカラとすりへってゆく日常の風景だ。しかし、どこかその風景が違ったように見える。特に「青空」や「サヨナラ」に顕著なのだけど、過去を振りきって新しく進んで行くという脱皮感のようなものがある。これが、すごく作品全体を風通しのいいものにしていて気持ちよい。どうも前作からの間にプライベートでいろいろとあったらしいけど、それを乗り切ったことが見事に作品に昇華されているということか。彼の音楽はソウルやファンクが基調となっている。しかしP-FUNK的なそれではなく、もっと内省的なものだ。プリンスの個人名義のアルバムに見られるような、密室的な緊張感に似た感覚かもしれない。しかし、彼はその歪さを見事にポップへ転化している。それはまさに、いやしい魂がヒットチャートをかけぬけていく快感である。ポップであるものは、ポップであるからこそ毒を内包するべきだし、逆に毒を持つものはすべからくポップであろうとするべきだ、と僕は思う。スガシカオはそこに対して非常に自覚的かつ意識的なアーティストである。僕が彼を信頼する一番の理由はそれだ。